小屋での生活

 ペリーヌはロザリーに紹介して貰った下宿に一日も泊まらずに池のほとりの小屋での生活を始めました。
 ペリーヌが下宿部屋を出たことに関しては、原作では女工たちの下宿屋の環境の悪さというのが、結構、詳しく書かれていたのですが、アニメではそういう描写はあまりありませんでした。その為、後にビルフランを伴って女工の下宿屋に案内し、その生活環境のひどいことを教えようとしたペリーヌでしたが、アニメではちょっと説得力に欠けるきらいがありました。
 唯、下宿屋に泊まることに拘泥しなかったところはいかにもペリーヌらしいところではなかったかと思います。普通の少女ならいくら下宿屋がひどかったとしても、池のほとりの狩猟小屋を見つけたとしても、下宿を出てあそこに住もうなんて考えもつかなかったでしょうし、あんなところで一人で寝るのは怖いし心細い、という気持ちが先に立つでしょう。でもずっと長い旅を続けていて野宿することにも慣れっこになっていたペリーヌの感覚はそういう普通の少女とはちょっと違っていたんですよね。

 そうして池のほとりの小屋でのペリーヌの生活が始まりました。小屋で生活を始めたペリーヌは自分自身の生活をよりよいものにしていこうとしていろいろな工夫を凝らします。その生活ぶりは大変魅力に富んだもので、この時期のペリーヌの生活ぶりを見て、より一層ペリーヌの虜になったという人も結構多いんじゃないでしょうか?(私もその一人です。(^_^))

 まず最初に作ったスペイン靴、これはインパクトが強かったですよね。仕事をしている内に元々ぼろだったペリーヌの靴は壊れてしまい必要に迫られて靴を作ることになったのですが、しかしここで自分で作ろうと考えてしかもそれを実行してしまうところがペリーヌのペリーヌたるところでしょう。
 ペリーヌはインドに住んでいた頃もいろいろな地方を転々としていた様子ですし、更にギリシャからフランスまでずっと旅を続けてきました。きっとそんな中でいろいろなものを目にして知識を身に付けていたのでしょうね。出来れば前半の旅の部分でペリーヌがどこかでスペイン靴を目にする、というようなエピソードがあれば、もっと説得力があったんじゃないかとも思わないではないですが……。
 最初は葦を取ってきて靴底を編もうとしますが、なかなかうまくいきません。それを今度は葦を叩いて筋を伸ばし縄を綯って再度チャレンジしてなんとかかんとか靴底として使えそうなものを作り上げてしまいます。
 蝋燭の火の下で針に糸を通そうとして糸の先を舐め、靴底に厚地の木綿で作った靴の型を縫い付ける。アニメではそうして試行錯誤しながらペリーヌが靴を作り上げて行く過程が詳細に描写されています。地味なシーンではあるんですが、この仕事に熱中している時のペリーヌはなんともいえず魅力的です。
 ずっとペリーヌの作業の様子を見ていたポールは『出来上がるまで見ていたいよ』と言いましたが、私もたぶんあの場面に居合わせていれば、きっとそんな気持ちになったでしょう。ポールの目には自分で靴を作ろうとする、そして実際に作り上げてしまうオーレリィという少女はすっごくかっこいいお姉さんに映っていたんじゃないかと思います。

 漸く完成したスペイン靴を履いて踊るように歩くペリーヌ、自分の足に履いたスペイン靴を見つめてうっとりとした表情を見せるペリーヌ。スペイン靴を履いているとトロッコ押しの時にもなんだか足取りが軽くなったように感じられました。
 これに自信を得たペリーヌは次にシミーズ作りに挑戦し、更に鍋やスプーンやフォークまで自分で作ります。最初は靴やシミーズを作ったと聞いて感心していたロザリーも「フォークくらい買えばいいじゃない。」と流石に呆れてしまいますが、ペリーヌにとってはこれらのものを作ること自体が生活の中の大きな楽しみになっていたんですよね。

 ペリーヌのような生活をそのまま経験するのは難しいことだと思いますが、でも現代の生活にも通ずるところはあるような気がします。
 実際に自分の力で何かを作り上げた時の満足感、達成感というのは格別なものがありますし、そういう経験は誰しも持っているのではないでしょうか?
 私自身で言えば、ペリーヌのように生活用具を作ったりと言うことはありませんが、例えばこのホームページに掲載している文章やイラスト、MIDIデータがそれに当たるかも知れません。自分が作ったものって第三者から見ると稚拙なものであっても特別な愛着を感じますし、作りあげた事に対する満足感というのもペリーヌの場合と共通しているような気がします。
 また一人暮らしを経験している人であれば、最初はガランとした部屋だったのが、段々と生活用具が揃っていくという感覚も判ると思います。
 私も一人暮らしを始めたばかりの頃は部屋にはなんにもありませんでした。取り合えず布団とラジカセとコンロとあと……、鍋とか洗面器とか、生活に必要なものが必要最小限揃えられていただけでした。テレビや冷蔵庫もありませんでした。勿論、ペリーヌの生活とは全然違うのですけど、最初は何もない部屋だったのが、段々と必要なものを揃えていって、少しずつですが生活の場としての体裁を整えて行くという過程は一脈通ずるものがあったんじゃないかと思うのです。
 シミーズを作る時にはキャラコを買う為に初めて貰ったお給料を握り締めてお店に入っていく、と、いうシーンがありましたが、今まで欲しくても買えずにいたものが、お金を手に入れたことで買う事が出来る、しかもそれが自分で稼いだお金である、となるとお店に入っていく時のわくわくする気持ちって本当に心楽しいものですよね。(この辺りは原作の方でペリーヌの細かい心理描写がなされています。)
 私が初めての給料を貰って一番最初に買ったものは電気炊飯器でしたけどね。炊飯器を買うまで私の食生活はインスタントラーメンがメインでした。(^_^;)

 小屋で生活をしていた時のペリーヌは大変いきいきとしていて楽しげで物語中でも最も輝いていた時期ではなかったかと思います。前述のスペイン靴を履いて踊るように歩く姿とか、馬の尻尾の毛を「ええい」と引っこ抜いてキャーと叫んでロザリーと一緒に逃げたり、魚を吊りあげて大喜びしているシーンなど、とても微笑ましく明るく楽しい雰囲気が画面から漂ってきていました。
 このすぐ前には母の死、そしてひとりぼっちでの旅と辛い時期が続きましたし、この後、ビルフランのそばで働くようになると勿論、嬉しさはあったものの、反面、不安や緊張がペリーヌの生活に影を落とすようになります。
 ペリーヌが小屋で過ごした期間は僅か一ヶ月か二ヶ月の間でしたが、ペリーヌにとってはひとときの安らぎ、ひとときの猶予期間のような形となり、本当に貴重な日々ではなかったかと思います。
 しかしそんな日々も終わりを告げる時がやってきます。秋が訪れ、やがて冬になれば小屋は狩猟小屋として使われることになり、否応なく出て行かなくてはなりません。そしてペリーヌには通訳としてビルフランのそばで働くという思いがけない機会に恵まれることになります。
 ペリーヌに通訳をする機会が巡ってきた時、原作には以下のような記述があります。

『なるほどこの島には魅力がある。ここを去るのはまことに不幸だ。しかしここを離れなければ、お母さんの定めたそうして自分の目指してゆかなければならぬ目的には近づけまい、(中略)そもそもあの苦しい旅の疲れと惨めさとを耐え忍んで来たのは、それがどんなに面白い事であろうと、こんなことをして遊んで過ごすためではなかったし、また卵を採ったり、魚釣りをしたり、花をつんだり、鳥の歌を聞いたり、ままごとみたような食事を出したりする為でもなかった。』

 そうしてペリーヌは短い安息の日々に別れを告げて新たな運命へと突き進んで行くことになるのでした。

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