ときめきメモリアルショートストーリー

いつかきっと・・


第二話『あたしがきら高に入学出来た訳』の巻

 あたし、朝日奈夕子。GWの最終日、駅前で早乙女好雄って奴と待ち合わせ
してたんだけど、ひょんなことからチンピラに絡まれてしまった。その時、留
さんと名乗るおじさんに助けてもらったんだけど、この留さんって一体何者??

                 *

 ここは駅前商店街のとある喫茶店。留さんにチンピラたちから助けてもらっ
た後、そのまま別れるってのもあれだし、助けて貰ったお礼も兼ねて留さんを
お茶に誘ったんだよね。ま、お礼と言ってもここのお勘定はたぶん、留さんが
払うことになると思うんだけど……。
 え? それじゃ、お礼になってないって? いーのいーの、あたしみたいな
かわいい女子高生と一緒にお茶出来るってだけでも留さんはラッキーってもん
よ。
 ウエイトレスさんが注文を取りに来たので、留さんはアイスコーヒーを、あ
たしはフルーツパフェを注文した。

「きらめき高校って言えば、この辺じゃ名門じゃないか。あんた見掛けによら
ず頭いいんだな。」
 留さんが言った。確かにうちの高校はこの辺りじゃ名門で通ってるし、きら
高に通ってるってだけで、結構、一目置いて貰えたりするんだよね。
「見掛けによらず、ってとこだけ余計よ。」
「ああ、すまねぇ、つい口が滑っちまった。」
 あたしが釘を差すと留さんはちょっと困ったように頭を掻いた。
「口が滑ったってことは、要するにあたしはあんまり賢そうには見えないって
こと?」
「いや、そういう訳でもないんだが……。」
 留さんは更に困った顔になる。う〜ん、なんだかかわいいじゃない。ま、あ
んまりいじめちゃかわいそうだし、この件はこのくらいにしといてあげよう。
「別にいいよ、気にしてないから。それよりおじさ・・じゃなかった、留さん
は何してる人なの?」
「何って?」
「仕事よ、仕事。」
「ああ、俺は単なるフリーターだよ。
「フリーター?」
「ああ、今は伊集院重工の戦車工場で戦車の組み立てのバイトをやってる。」
「留さん結構いい年なのに、定職についてないの?」
「まあね。」
 ふうん、フリーターねぇ・・。まあそれはそれでよいとは思うけど……。
「わかった、きっと留さんはバンドかそれとも劇団かなんかやってんでしょ?
それで本業だけじゃ食べてけないからバイトやってるんじゃない?」
「いや、そういう訳でもないんだ。唯、フラフラしてるだけさ。」
「なんで?」
「いや、その方が気楽だしな。」
 留さんはそう言ったけど、どうも何かありそうな気がするんだなぁ。う〜ん、
好奇心が疼くゾ。

「それはそうとあんた、これからどこかへ出かけるところじゃなかったのか?」
 留さんは話題を変えた。そう言えば今日は一応デートの予定だったもんで、
少々おしゃれしてきてたんだよね。留さんはそれに気付いたらしい。
「まあね、実はデートの予定で待ち合わせだったんだけどね。相手がなかなか
来ないもんで待ってた時にあいつらにからまれちゃったのよ。」
「それじゃ、早く行かないとまずいんじゃねーのか? 相手は今頃待ちくたび
れてるぜ。」
「いいの、いいの。どうせ今日の相手は本命じゃないんだから。そもそもあい
つが時間に遅れるからこういうことになったのよ。」
「いくら本命じゃないと言ってもあんまり待たせたら悪いだろ?」
「大丈夫だって。どうせあいつにとってもあたしは本命じゃないんだから。今
頃あたしがなかなか来ないもんで別の女の子でも誘ってコンサートに行っちゃ
ってるわ。そういう奴なんだ。」
(あとで判ったことだけど、好雄の奴はあたしがなかなか現れないもんで、た
またま通りかかった虹野沙希っていう女の子を強引に誘ってコンサートに行っ
たらしい。唯、今日のコンサートは虹野さん好みの内容じゃなかったし、あま
りよい印象は与えられなかったみたいだけどね。)

「なんかいい加減なんだな。ドライというのかなんというのか……。」
「うちの学校の伝統なのよ。きら高には伝説の樹ってのがあってね、卒業式の
日にその樹の下で女の子からの告白で生まれた恋人達は永遠に幸せな関係にな
れるんだって。その伝説にあやかろうと思って卒業の日まではちゃんとしたカ
ップルにならずに、何人もの人と友達以上恋人未満の関係を続ける人が多いの。
その中から本命を選んで卒業の日に告白するって訳。」
「じゃ、あんたにも今日のデート相手以外に本命の人がいるって訳か?」
「まあね。」
「それで卒業式の日に告白しようって魂胆な訳だ。」
「まだ判んないよ、そんなこと。それまでにあたしの気持ちが変わらないとも
限らないし、第一あの人があたしのことをどう思ってるか判らないもの……。」
と、そこであたしは言葉を切った。ホントはね、あの人があたしのことをどう
思っているか、判らない訳じゃないんだ……。最近のあの人は別の女の子とば
かり出かけていて、あたしや他の女の子にはたまにしか声を掛けてくれないも
の……。

「それにちゃんと卒業出来るかどうかも判らないしね。あたし、落ちこぼれだ
から……。」
と、言ってあたしは舌をだして見せた。
「そもそもあたしがきら高なんて名門校に通ってるってだけで、奇跡みたいな
もんなんだから……。」
「でもきら高の入学試験に合格したんだったら、それなりに学力はあるってこ
とだろ?」
「実はあたし、学力できら高に入学した訳じゃないんだ。あたしは特別。うち
の学校、頭の出来に関係なく入れる裏技があるのよ。」
「裏技??」 
「えへへ、教えてあげようか? 留さん、今、暇してる?」
「まあな、今日は仕事も休みだし、、」
「じゃ、一緒にきて。あたしの特技を見せてあげるよ。」

                 *

「やったぁ、これで十個目よ。」
 クレーンゲームの景品取り出し口からぬいぐるみを取り出しながらあたしは、
留さんにVサインをしてみせた。
 ここは駅前のとあるゲーセン。喫茶店を出た後、あたしは留さんをこのゲー
センに連れてきたんだ。(勿論、喫茶店のお勘定は留さんが払ってくれた。)

「へええ、うまいもんだなぁ、俺はさっきから全然取れないのに……。」
 留さんは感心したようにあたしのクレーンさばきを見つめている。
「えへへっ、あたしクレーンゲームには自信あるんだ。なんたってこれできら
高に入学したんだもん。」
「なんだ、それ?」
「ん、うちの学校には一芸入試って制度があってね、成績に関係なくなにか超
すごい得技を持ってれば推薦で入学させてくれるの。」
「ふーん。」
「例えば、清川望って子、知ってるでしょ? ほら、アトランタオリンピック
で日本代表になった・・・。」
「ああ、そういえば……、あの子もきら高だったっけ・・・。」
「そうそう、清川さんって成績は大したことなくてあたしとどっこいどっこい
なんだけど、ほら、水泳じゃ、超高校級の実力を持ってるじゃない。それでも
ってきら高に入学したのよ。それに片桐彩子って絵の才能で入学した人もいる
し……。」
「じゃ、なにか? あんたはまさかそのクレーンゲームの腕前で入学したとで
もいうのか?」
「そうそう、その通り! 恐れ入ったか。」
 あたしが言うと、留さんは頭を抱えてしまった。そりゃまあ、無理ないんだ
けどね。そもそもクレーンゲームの腕前で入学させてくれる高校があるなんて、
信じろったって無理な話よね。あたしだって最初は信じられなかったくらいだ
もん。この話をすると大抵の人は、きつねにつままれたような顔をして驚くん
だ・・。
「うちの高校の理事長・・伊集院っていうおじいさんなんだけど、この人がち
ょっとした変人でね、変わったことが大好きなのよ。一芸入試もこの人の発案
らしいんだけど、スポーツや芸術は勿論のこと、それ以外のことでも他の人よ
り抜群に優れた特技を持ってるって認められれば、推薦入学させてくれるのよ。
あたしほど変わった特技で入学した人は他に知らないけどね。」
「ああ、伊集院のじいさんなら知ってるよ。俺のバイト先の会長だしな。確か
に変人だって噂は聞いたことはあるが……。」
「まあ、うちの親はどんな入り方でも一応名門校に入ったってんで喜んでたけ
どね。でも入れたのはいいけど、結局、授業にはついていけなくて落ちこぼれ
……。補習だ、追試だ、なんだかんだで、苦労させられてるんだ。」
 ホント、これが一番の問題なんだよね。うちの学校、結構偏差値が高いから、
あたしみたいに勉強嫌いな子には向いてないんだよね。先生たちも理事長の気
まぐれで変な奴が入学しちゃったってんで、いつも胡散臭そうな目であたしを
見るし……。
「ふうん、あんたも苦労してるんだな。」
「まあね、でもそれ程大したことじゃないよ。じゃ、あたし袋貰ってくるね。」

「はい、留さん、あたしを助けてくれたから、これあげるよ。」
 あたしはゲットしたぬいぐるみを貰って来た袋に入れると留さんに差し出し
た。
「おいおい、あげると言われても……。」
 留さんは当惑したような顔をして言った。確かに三十前の男がこんなに沢山
ぬいぐるみなんて貰っても、ちょっと困るかもね。でも別に留さん自身が持っ
てなくても誰かにあげればいいじゃない。

「いいからいいから、奥さんか子供にでもあげたら?」
「俺はまだ独身だぜ。」
「あ、そうなの? じゃ、彼女さんとか……。」
「それも今はいねーなぁ。」
「今は……、ってことは昔はいたんだね。」
「まあね。ふられちまったけどな。」
「ふーん、留さんも暗い人生送ってんだね。」
「ほっとけ。」
 留さんは些か渋い表情になっていた。なんだか心の傷がいまだにちくちく痛
むって感じの表情なんだなぁ、これが。で、あたしは半分冗談で、でも半分は
留さんをなぐさめてあげるつもりで言った。

「それじゃ、今日一日だけ、あたしが留さんの彼女になってあげようか?」
「ば〜か、俺はガキを相手にする趣味はねーよ。」
 留さんはぶっきらぼうにこう答えたんだけど、これには少々あたしもムカッ
と来てしまった。
「ちょっと、留さん!! その台詞は聞き捨てならないわよ! あたしみたい
な魅力的な女子高生をつかまえて“ガキ”はないでしょうが! この胸が目に
入らないの?」
 あたしは留さんの前で胸を張ってみせた。
「目に入らねーなぁ、俺からみたらガキだよ。」
「何、言ってんのよ! あたしも十月になったら十八歳になって、お酒もたば
こもパチンコも出来るようになるし、18禁のビデオだって見れるようになる
のよ!」
「酒やたばこは二十歳からだよ。」
 うっ・・、そ、そうだったっけ・・?(^^;

「あたしが子供に見えるなんて……、やっぱり留さんはおじさんね。」
 あたしは開き直って言い返した。
「俺がおじさんに見えるのはあんたがガキだからさ。」
 留さんも言い返す。
「違うわよ、留さんがおじさんなの!」
「あんたがガキなんだよ!」

 暫しにらみ合い……。
 やがてあたしたちは二人揃ってぷっと吹き出してしまった。こんなこと言い
合いしてたって、堂々巡りなんだけど、でも結局これってあたしも留さんも同
じレベルで会話してるってことだよねぇ。
 あたしからみたら留さんはおじさんに見えるし、留さんから見たらあたしは
子供に見えるのかも知れない。でも見掛けはともかく中身はそんなに差がない
のかも……、なんかそんな気にさせられてしまう一場面だった。
 留さんもあたしと同じ気持ちだったらしく、
「まあ、今日だけはあんたで我慢してやるか。」
 なんて言って来た。
「あたしも今日だけはおじさんで我慢してあげるよ。」
「おい、おじさんって言うなって。」
と、言う訳で取り合えず休戦協定が成立した。

「留さん、遊園地に行こうよ!! この間、“ビビール”っていう絶叫マシー
ンが出来たんだよ。あたしまだ一度も乗ったことないんだけど、行きたいと思
ってたんだ。」
「う〜ん、しかし俺はちょっとそういうのは苦手なんだが……。」
「えっ、そうなの? それはちょっと意外だなぁ。留さんあんなに喧嘩強いの
に……。」
「それとこれとは別さ。」
「そんなもんかな。でもきっとスカッとするよ。ねえ、行こう行こう」
「それほど、言うなら……、行くか。」
「じゃ、決定ね! ソッコーで行こうよ!!」

                           <つづく>


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