慢性中耳炎


慢性中耳炎と称される疾患は、炎症性破壊性の中耳病変を総称し、炎症がおさまった状態と活動性炎症を含む。
一般には2種類に分類される。

(1) 慢性化膿性中耳炎  Simple chronic suppurative otitis media
(2) 真珠腫性中耳炎  Cholesteatoma

前者は合併症がほとんどないが、後者は骨破壊が高度にみられ、合併症併発の頻度が高く、時にはそれによる生命の危険性がある。

1) 訴え・症状

a. 耳漏

 一般には粘液膿性で、黄色であるが、強い悪臭およびコレステリンを含んだ分泌液の場合は真珠腫が疑われる。しかし、その他の雑菌感染の場合も骨破壊の強い場合は悪臭を発する。血性耳漏を伴う場合は耳茸などの他に悪性腫瘍の場合があるので注意を要する。急性増悪期では耳漏は多く、拍動性に流出する状態もある。

b. 難聴・耳鳴

 聴力障害の程度は、中耳炎の型および炎症の程度により種々である。一般には伝音性の聴力低下が生じる。場合によって、耳漏あるいは肉芽による伝音のため乾燥時より聴力の良い場合がある。鼓膜緊張部の欠損による聴力損失は平均40dBである。耳小骨が離断すると50dBにまで低下する。上鼓室に限局する真珠腫では、正常聴力を保持することがある。一般には初期で伝音性の低音障害型であり、進行すると水平型となり、さらに進行すると正円窓を介して内耳に炎症が波及し、感音性難聴となる。
 耳鳴は無い場合も多いが、訴える場合は低音性のものが多い。

c. 疼痛

 一般にはみられないことが多い。急性増悪期には耳痛や頭痛が生じる。真珠腫性中耳炎で限局性硬膜炎あるいはその他の頭蓋内合併症の併発時に、強度の頭痛を訴える場合がある。

d. めまい

 炎症が内耳に波及したときに持続性のめまいが起こる。外耳道の加・減圧により、一過性の眼振が出現する場合は真珠腫により水平半規管の骨壁が破壊され、ろう孔を生じていることを示す。

e. 顔面神経麻痺

 ファローピー管が真珠腫により侵襲されると、顔面神経麻痺が生ずる。顔面神経の枝である鼓索神経も鼓室内走行部で侵される場合、同側の舌のまえ3分の2の味覚障害を起こす。

f. 鼓膜所見

 種々の鼓膜穿孔がみられるが、単純正中耳炎の場合は緊張部に、真珠腫性の場合は弛緩部(上鼓室)あるいは辺縁性の穿孔がみられる。

2) 経過・予後

 単純性慢性化膿性中耳炎は軽快、増悪を繰り返すことが多いが生命の危険性は少ない。外界よりの水分、あるいはアデノイド、副鼻腔炎、上咽頭炎による経耳管性の感染などによる急性増悪がある。真珠腫性中耳炎は薬剤により混合感染を防ぐことが可能であるが、真珠腫の発展防止には無効である。

3) 原因

 乳突蜂巣の発育の不十分が慢性化になりやすい原因の一つである。穿孔した鼓膜に上皮層の扁平上皮が穿孔縁を越えて中耳腔内に進入し、鼓膜の再生を阻止する。また、鼻,副鼻腔,アデノイド,口蓋扁桃の慢性疾患など、耳管経由で繰り返す感染や中耳腔内の不十分な排膿なども、中耳炎の慢性化を助長する。

4) 診断・検査

 耳漏,難聴を訴えて来院する。鼓膜穿孔や耳漏がある。
X線検査,聴力像でその病変の過程を知ることが可能である。耳漏の細菌検査は薬物治療をするうえに必要である。

5) 治療

 a. 保存的治療

 鼻,副鼻腔疾患,アデノイドなど、原因と考えられる疾患の治療を行い、耳管機能を良好にする。
 局所的には耳漏がある場合、それを除去し、抗生物質を含有する点耳薬を点耳する。耳漏中の細菌検査および感受性検査により、有効な薬剤を選択する。しかし、長期間使用の場合、菌交代現象が生じやすいので、軽快しない場合は頻回の菌検査が必要である。点耳液中に副腎皮質ホルモン剤を添加することにより、消炎効果や外耳道皮膚炎などの副作用は防止される。外耳道内に肉芽,ポリープのある場合は耳用鉗子で切除する。
 以上、保存療法で耳漏の消失しない場合、あるいは真珠腫のある場合は、これらの病巣は手術的に除去しなければならない。

b. 手術的療法

 中耳病変の種類によって種々の手術療法がとられる。病変の除去のみでなく、聴力改善を図るために、鼓室形成術が多く応用される。

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