書名:神の手(上)
著者:久坂部 羊
発行所:NHK出版
発行年月日:2010/5/25
ページ:359頁
定価:1800円+税
書名:神の手(下)
著者:久坂部 羊
発行所:NHK出版
発行年月日:2010/5/25
ページ:359頁
定価:1800円+税
市立京洛病院の外科部長で消化器外科医の白川泰生は肛門末期ガンの患者古林章太郎の主治医だった。
21歳の末期がん患者・古林章太郎の激痛を取り除くため外科医の白川は最後の手段として安楽死を選んだ。その判断に対し患者の母・康代はそれを刑事告発した。殺人か過失致死か。状況は白川に限りなく不利だったが、不起訴に。そこには謎の圧力が検察に掛かっていた。現代医療では、安楽死の問題は避けて通れない。法律では認められていないが、それに近いことが、現場ではさまざまな形で密かに行われている。
安楽死法制化の議論を交えながら、安楽死は高齢者のことにように思われているが、実は若年者の方が切実な問題。例えば末期ガンは患者に耐えがたい苦痛を与える。若ければ若いほど苦痛。末期ガンで見込みのない人には安楽死が望まれている。でも今は安楽死は殺人。その法制化を目指す団体、それを阻止する団体がそれぞれの主張を展開させながら安楽死法案が成立するというストーリー。
万策尽きて苦悩する医師や遺族、医療を政治の道具にしようと目論む政治家らが繰り広げる物語を通して、崩壊の危機にある現代医療を展望し、日本に安楽死は必要なのかを鋭く問いかける。安楽死が認められてもそれを実施するのは医師、手を下すのは医師、そして例え法律で認められても殺人に違いない。安楽死、尊厳死に対して考えさせられる。しかし安楽死を認めると「治る見込みの無い人、役に立たない人は安楽死へ」という坂が転がるように流れてしまう危険も。選民意識で健康で無い人、障害者、生きる価値の無い人と勝手に医師、家族、社会が差別して安楽死へ向かう恐れがある。