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世は〆切り

書名:世は〆切り
著者:山本 夏彦
発行所:文藝春秋
発行年月日:1996/1/15
ページ:291頁
定価:1500円+税

ちょっと古い著書ですが、今も新鮮、山本夏彦節がいっぱい。昭和は真っ暗ではなかった。昭和9年頃の向田邦子の「あうん」を読めばわかる。真っ暗だったのは社会主義者、共産主義者5000人から1万人の人達。それ以外はそんなに暗くなかった。戦後の食糧難もただおなかが空いた経験だけで、今のアフリカのように餓死者が出たわけではない。東京近郊に買い出しにいった。農家が70%位あってその人たちは飢えていなかった。でも経験した人達は餓死するところだったと大げさに言う。昭和10年頃明治は遠くなりにけりと中村草田男は言った。

間に関東大震災、大東亜戦争で東京は壊滅した。だからよけい明治は遠くなった。今、平成27年、昭和は遠くなりにけり。明治時代の漱石、鴎外は漢文の素養があった。その弟子は全て西洋を学んだ。誰も漢籍に通じた人はいなくなった。哲学なんて街頭で、生活の中で論議するもの、それが岩波書店によって文字だけになった。文字をひねくり回すことになってしまった。清水幾太郎は寄席で育った。だから誰でも分かる文章が書けた。落語は誰が聞いてもわかるものだけが残った。芝居も同じ、でも映画になるともうダメ、勿論テレビも。明治の元勲は薩長の田舎侍でも中には副島種臣、伊藤博文など漢籍に通じた教養があった。ちょっと斜めの視点から世の中、世間を見つめる眼は確か?今生きていたら現代をどう皮肉ってくれるか?