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帝の毒薬

書名:帝の毒薬
著者:永瀬 隼介
発行所:朝日新聞出版
発行年月日:2012/3/30
ページ:469頁
定価:2300円+税

戦後最大の闇に挑む怒濤のミステリー、帝銀事件はなぜ起こり、葬り去られたのか?帝銀事件というノンフィクションを扱いながらその事件の謎解きをフィクションで行っている作品。
帝銀事件
「終戦後の昭和23年1月、帝國銀行椎名町支店に1人の男が現れて「近所で集団赤痢が発生した。その家の者がこ の銀行に来ていることがわかったので」と予防薬を全行員に渡した。それを飲んだ16人 中、12人が絶命、4人が 意識不明になった大量殺人事件」そしてその犯人として画家の平沢貞道が逮捕され起訴されて死刑が確定するも、終生無実を訴え続けながら死んでいった。

戦時中の満州が舞台の物語から始まる。満州で細菌兵器の研究をしていた倉田部隊は、極秘裏に中国人やロシア人などの捕虜たちに人体実験を繰り返していた。その倉田部隊の警備を担当していた歩哨羽生誠一が主人公。
戦後警視庁の捜査一課に配属されていた。そんな中帝銀事件は発生する。犯人を追いかける捜査に倉田部隊に属していた医師、薬剤師などがちらほらする。倉田部隊を追っていた羽生誠一、気がつくと先輩、上司は倉田部隊を完全に無視(避けてしまう)。そして博士から名刺をもらっただけの画家の平沢貞道が逮捕され、しつこい取り調べに屈して自供。でも裁判では無罪を主張、でも最高裁でも死刑判決。

裏に倉田部隊の人体実験データを巡ったGHQとの取引。そして帝銀事件を表に出せない倉田部隊、GHQ特に人体実験は極秘にせざるを得なかった。戦犯としても倉田部隊は収監もされなかった。著者は平沢貞道は冤罪という立場で、真の犯人を倉田部隊のナンバー2の子分の薬剤師と仮定して羽生誠一に捜査をさせる。そして顛末は?

戦前、戦後の混乱期の世相が良く描けている。帝銀事件以外にもGHQがらみを疑われている未解決事件もまだまだある。視点を変えた見方も良い。