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本に出会う

岩倉具視

書名:岩倉具視
   言葉の皮を剥きながら
著者:永井路子
発行所:文藝春秋
発行年月日:2008/8/10
定価:1524円+税

江戸末期から明治にかけて、激動の時代、価値観が大幅に変わった時代。今から見てもよく分からない。黒船がやって来て、尊皇攘夷、もともと歴史の中にいた人々は攘夷(外国を追い払う)なんてできっこないと思っていた。儒教の浸透で将軍家に対する尊敬の気持ちはあったが、天皇についてはもっともっと意識が下だったようだ。明治、大正、昭和の皇国史観から見た見方で尊皇。この本の主人公の岩倉具視も下級公家、もともと幕府を倒すなんて考えていなかった。有力大名による連立制にして将軍慶喜が政治を行う。という構想を抱いてようだ。ところが流れというのは怖いもので、大政奉還(徳川慶喜は朝廷、島津、長州、土佐、などをすぐに困って泣きついてくるだろうともって芝居をした)でも鳥羽伏見の戦いで官軍が勝ってしまった。幕府軍の方が強いと思って官軍も戦っていた。そんな流れの中を遠くで見ていたのが各藩の藩主達。どうせどこかでやられてしまう。でも臣下を参加させておこうと、大久保、木戸、西郷など下級藩士が官軍に参加。負けたときはそれらに切腹でもさせれば良いと思っていた。ところが藩主を差し置いて幕府を倒してしまった。さて明治のスタート時点に気がついてみると自分の居場所がなくなってしまった。家来はみんな政府軍に、藩主は面倒を見なくてもよくなった。家来は政府に生活の面倒を見て貰うことになったとたん。藩主は城、領地を返上ということに。これは仕掛けた維新の志士たちも予想もしなかったことではないだろう。こんなきっかけで出来た明治維新。でも明治、大正、昭和の時を過ごすと段々と理屈をつけて、さも先見の明のあった人達の活躍で幕府を倒した。明治を作ったと。司馬遼太郎などその最たる者ですね。でも永井路子の見方はちょっと違う。また岩倉具視の妹(孝明天皇の側室)、和宮など女性たちの働きも、岩倉具視が世に出てきた縁も見ている。いままでとはちょっと違う歴史観も面白い。