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青雲はるかに

書名:青雲はるかに(上)
著者:宮城谷 昌光
発行所:集英社
発行年月日:2000/12/20
ページ:456頁
定価:686円+税

書名:青雲はるかに(下)
著者:宮城谷 昌光
発行所:集英社
発行年月日:2000/12/20
ページ:450頁
定価:686円+税

中国の物語は風水の思想のせいか、よく主役の人物について子供の頃、青年の頃、将来龍になる、鳳凰の再来、青雲のように登っていく。など物語のはじめから誰かが占ったり、老人が語ったりする。これは中国語でもそうなのか、日本人の作家が中国の物語を書くとそうなってしまうのか、よく分からないが、この物語もやっぱり大望抱く才気活発の青年説客の物語から始まる。

時は紀元前250年頃の戦国時代(秦の始皇帝が出現する少し前)の話、范雎(はんしょ)という秦の名宰相の生涯を描いています。范雎は無二の親友鄭安平の妹の病(婚家で虐待にあって戻って来たが歩くことが出来なくなってしまった)を治すべく、高価な薬を買うために、やむを得ず、悪名高い魏斉(魏の宰相)の奸臣須賈に仕えた。范雎は斉の情報を収集するため、斉に潜入したとき偶然、襄王との謁見が出来た。それを魏の情報を斉に漏らしたとして魏斉に誤解され、宴席で范雎は凄惨な笞打ちにより歯や肋骨を折られ、半死半生のまま簀巻きにされ、厠室で汚物に塗れた。絶体絶命の大ピンチ、でも救いの手が。前編は屈辱、隠忍の時代を我慢強く生きた范雎の半生を描いている。

魏に自分の居場所が無くなった范雎は魏の巷間に身を潜ませ、魏斉(魏の宰相)と奸臣須賈に復讐を誓いながら時を待っていた。秦軍は戦いをすれば殆ど勝つという猛将白起、魏冉、宣太后らは秦の領土を拡大するも私有地を増やすばかり、そんな秦の様子を窺いながら1年、漸く范雎は秦の昭襄王への謁見が叶い、天下の秘策「遠交近攻」(遠い国と友好を持ち、近隣を滅ぼす)を献じ、信任を得る。そして宰相になる。秦の中の政争の芽を摘み、韓、魏、趙など隣国を滅ぼし、巨大帝国への道筋を作っていく。そして戦国時代の終焉をもたらした。壮大なスケールの物語で一気に読んでしまった。

こんな昔の中国の人と今の中国人とは全く違った感じがしますね。今一度自分たちの先人の物語を読んだら今の中国人たちも少しは変わるのでは?でもこんな物語は中国には残っていないのかもしれない。

本書より
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政治とは、公平をおこなうことにすぎない
人の可能性を否定するときは、人はすでに死んでいる。すくなくとも心は死んでいる。
この世の悲哀にみちた重みに負けまいとする声であり、世故の汚濁にけがれまいとする声でもある。

「近道ですよ」
 と、野人におしえられた。
 その道は丘を越えるのである。
 青々とした丘である。丘の上に白い雲がみえる。
 ――なにやら、階(きざはし)のような・・・。
 と、范雎は雲をみあげた。雲のかたちが階段のようなのである。その階段を目でのぼってゆくと、深縹(ふかはなだ)色の天である。
「天は、天か・・・」
 范雎はつぶやいてみて、奇妙なむなしさをおぼえた。天はどこまでいっても天であろう。つまり、そこにはなにもない。
 ――雲があっての天である。
 范雎はそんなふうに感じた。が、雲は流れてゆく。階段のかたちはいつのまにかくずれている。
 春の丘である。
 しかしながら花がみえない。
 細い道であるが、あきらかに人の往来のあとがある。足ものとの草が倒れている。そのさきには轍がみえる。牛車などが通るのであろう。
 ――車が通る道なら、けわしくあるまい。
 と、安心したが、途中で石の多い急勾配の道があった。よくこんな道を車で通れるものだ、と范雎は感心しつつ、丘の中腹をすぎた。