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草笛の音次郎

書名:草笛の音次郎
著者:山本 一力
発行所:文藝春秋
発行年月日:2008/7/25
ページ:435頁
定価:629円+税

三度笠、縞の合羽に柳の葛篭、百両の大金を懐に、股旅ものの小説。これで何となくわかるが、裏街道を歩く人を「股旅もの」と初めて使ったのは長谷川伸、戯曲「股旅草鞋」で。旅から旅に股にかけるから股旅。

世の中に疎い未熟者の音次郎が旅を続けるその道中記。母と2人暮らしの若者が初めて江戸を離れて旅をする。今戸の貸元、恵比須の芳三郎の名代として成田、佐原へ旅をする。仁義の切り方も判らず、事前に兄貴分に教えて貰って練習するところから旅が始まる。旅を重ねて、失敗のたびに少しずつ成長していくその過程を描いた明るい作品。山本一力としては異色な作品です。

本書より
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「おひかえなすって。軒下三寸をお借り申し上げての仁義、失礼さんでござんす。おひかえなすって。」
「てまい、生国と発しますところ関東でござんす。関東は東の筑波山の峰々の美しさに、華の都は大江戸の大川の清き流れは美しく、深川でござんす。深川は仮の住まいとして、浅草は今戸の、恵比寿の芳三郎の若い者でござんす。」