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吉田松陰---久坂玄瑞が祭り上げた「英雄」

書名:吉田松陰---久坂玄瑞が祭り上げた「英雄」
著者:一坂 太郎
発行所:朝日新聞出版
発行年月日:2015/2/28
ページ:203頁
定価:720円+税

安政の大獄で処刑された人々の中に何故吉田松陰が混じっていたのか?
安政の大獄で処刑された主な人々
徳川斉昭(とくがわ なりあき) 前水戸藩主 永蟄居(永久的に謹慎)
松平慶永(まつだいら よしなが)越前藩主 隠居
橋本佐内(はしもと さない)越前藩士 死罪
一橋慶喜(ひとつばし よしのぶ)一橋家当主 隠居
徳川慶勝(とくがわ よしかつ)尾張藩主 隠居
頼三樹三郎(らいみきさぶろう) 学者 死罪
吉田松陰(よしだ しょういん) 藩士 死罪

吉田松陰の行ったこと
東北視察の際、通行手形の発行を待たず、宮崎鼎蔵らとの約束を守るため手形なしで他藩に行き脱藩し、ペリー来航の時に密航してアメリカに渡ろうとして断られた。その後自首して野山獄に入る。(25歳) 野山獄で獄囚に孟子を講義する(26歳)、許されて松下村塾を開塾(28歳)老中暗殺を企て幽閉投獄 (29歳)幕府の命によって江戸に護送。伝馬町獄舎で死刑になる(30歳)
上記の中で特に有名人でも地位が高かった訳でもない。安政の大獄で処刑された当時殆どの人は吉田松陰知らなかった。そんな吉田松陰を後年大宣伝して長州の尊皇攘夷のシンボルに持ち上げたのが久坂玄瑞だと著者は言う。久坂玄瑞は、吉田松陰のことを「尊敬はしているものの、付き合うには苦手なタイプ」と思っていた節がある。

この非業の死を遂げた吉田松陰の利用価値を一番最初に気付いた久坂玄瑞は自身の出世と長州藩士をまとめ若いリーダーとして台頭しようとした。そして明治の神話づくりひとつのシンボルとして松陰神社が出来た。いつの間にか神に祭り上げられた。そんな経緯を詳細に古文書など解読している。ただ著者は萩博物館特別学芸員という立場でもある。本来テロリストとしての吉田松陰を松下村塾と塾頭ということで教育者、そして教科書にもなった吉田松陰。これは大言壮語の政治家久坂玄瑞が巧妙に作り上げたイメージ、それはその後の明治の東郷平八郎・乃木希典、広瀬武夫の神格化。靖国神社の原点に繋がっていった。ちなみに今NHKでやっている大河ドラマ「花燃ゆ」の主人公「文」は吉田松陰の妹で久坂玄瑞の妻です。久坂玄瑞は文との結婚の時、文は「見目麗しくないからいやだと断った」が吉田松陰に強引に口説かれてやむなく結婚したとか。勿論他に愛人もいた。

幕末、維新の時代はなかなか難しい。ややこしい。でも普通に考えると、武士階級又は豪農の道楽息子とが新思想に触れて尊皇攘夷、開国と騒ぎまくった。若いエネルギーが炸裂した時代。そして秩序を保とうとして「死人に口なし」で吉田松陰などを大いに利用していくという策士もいたのでしょう。そんな策士に被せられた仮面を剥がしていくと本当の吉田松陰が見えてくるのではないかと思う。歴史に真実は求められない。事実を求めること。でも装飾された中で本当の姿を見ることはやっぱり難しい。