記事一覧

本に出会う

日本再生最終勧告 原発即時ゼロで未来を拓く

書名:日本再生最終勧告 原発即時ゼロで未来を拓く
著者:加藤 寛
発行所:ビジネス社
発行年月日:2013/3/21
ページ:223頁
定価:1500円+税

昨年1月に86歳で亡くなった加藤寛慶応義塾大学名誉教授の遺言、最後通牒。なんでもゲラ原稿のチェックをして直ぐ亡くなったとか。本書は150頁の本文、巻末座談会という構成の本です。最初のページは「本書は私の遺言である。少なくとも『原発即時ゼロ』の端緒を見届けないかぎり、私は死んでも死にきれない」で始まります。

日本の電力体制の歴史から振り返って福沢桃介(電力王)、松永安左エ門(電力の鬼)の目指したものをまとめて、戦後松永安左エ門、地域独占の民間9電力体制となった。そして松永安左エ門が一番懸念したこと。地域独占を認める代わりに監視委員会(第三者による)を作って経営、電力料金、サービス等にもの申すこと出来る仕組み作りを目指したが、却下されて、国が監視するということになった。

したがって電力会社は国よりは小さく、県より大きな会社という巨大な力をもつようになって、利権が温存され、官僚・電力会社・地方公共団体の「鉄のトライアングル」が確立された。
官僚は出向先を、電力会社は許認可を得ること。原発の損害賠償は国が面倒を見る。地方公共団体は補助金、支援金と。電力会社は少なくと消費者のことは見ない。政治家・官僚を見ていれば良い。
そんな背景の中で福島原発事故が起こった。

戦後電力会社が目指してきた基本方針
1.大規模集中型の発電所
2.三相高圧交流の送電網
3.同時同僚原則に従った電力供給

個別に発電所を持つより、中央に大きな発電所を作り超高圧交流で配電する。それも一方向のみという中で原子力発電所が国策として建設されてきた。効率33%程度の原子力発電所、火力発電所は58%程度まで改良されている。

今までは中央集権方式が効率よく、経済的に運営することが出来てきたが、これからは自家発電装置を持つことも可能になってきている。個別に発電をすることも可能に、そしてスマートグリッド。分散処理型の発電も出来る時代になってきており、核廃棄物の処理(処理が出来ない)、事故(損害賠償)を考えると全く経営が成り立たない原子力発電所を即時ゼロにすべきというが著者の主張です。

座談会の中ではなかなかおもしろいアイデアが一杯有ります。送電配電分離の進め方、東京電力の解体、株数による投票ではなく、株主人数で経営方針が決められる仕組みなど。第三者監視委員会の設置など。独裁主義、全体主義のいずれかに偏らない、自己制御の出来る仕組み。

原発は政治家と官僚、電力会社がそれぞれ身内の利益を優先する「たかりの構図」に陥っていたと指摘した上で、「民間が自立して安全な電気を取り戻そう」と電力システム改革の処方箋を具体的に描いた名著です。民主主義の基本はコミュケーション、原発建設賛成反対にしても徹底的にコミュニケーションはなかった。

一方的な説明会だけ、そして隠すことに終始して正確な情報が出てこない。「責任を取れない」ことに「責任を取らない」と怒っても責任は取れない。責任というのは責任を取らないといけない事態を招かぬようにすること。このあたりが判っていない政治家、官僚、経営者、マスコミが多すぎる。

「責任を取る」ということをもう少し真面目に考えて欲しい。でも考えられる人は政治家、官僚、経営者、マスコミを仕事とはしていないですね。150ページの短い本ですが、本質的なことが一杯、世の中のことを考えるのに教えられることが一杯詰まっています。

【巻末座談会】
なぜ地域密着の金融機関が脱原なのか 城南信用金庫理事長・吉原 毅
脱原発なんて簡単だ 東京大学大学院教授 江崎 浩
討論型世論調査でわかったこと 慶応大学教授 曽根泰教


「政官業たかりの構図 加藤寛氏遺作」2013/03/08(東京新聞)より
---------------------------
 一月に死去した加藤寛慶應義塾大学名誉教授は遺作となる著書で、福島第一原発事故の背後にある「政官業のたかりの構図」をえぐり出した。「官の肥大化」と一貫して闘ってきた加藤氏は、今後の電力システム改革で「民間が自立して安全な電気を取り戻そう」を訴える。

「避けることもできた難しいテーマ。加藤先生はあえてチャレンジした」と語るのは、担当編集者の前田和男氏。当初は大学改革をテーマにした書籍を考えていたが、二〇一一年三月の原発事故を受け、急遽内容を変更。その頃加藤氏は、教え子にメールを打ち、原発ゼロを目指して「一緒に戦おう」と呼びかけたという。

 加藤氏は自民党の歴代政権でブレーンを務め、国鉄の分割民営化など行政改革の立役者。加藤氏が「原発ゼロ」を訴えていることを本紙が報じ、それを意外に受け止める向きもあったが、「政治家や官僚が私的な利益を追求するのに絶えず怒りの声を上げてきた。それは国鉄でも原子力でも一貫している」と、教え子の城南信用金庫の吉原毅理事長は言う。

 加藤氏は、経済学のうち「公共選択論」と呼ばれる分野の第一人者。市場の暴走を抑えるため、政府は規制で介入するが、権限を逆手に取った「官の肥大化」に歯止めを掛けようとする学問だ。国鉄は、親方日の丸の体質で多額の赤字を出した「政府の失敗」の典型例だが、加藤氏は「国策運営」で進められてきた原発が抱える歪も見逃さなかった。

 それが政官業の「鉄の三角形」で、政治家は補助金などを通じた票集め、官僚は天下りなどの権限強化、電力会社は参入規制による地域独占の維持といった形で、身内で利益を分け合う「たかりの構図」だ。原発事故を契機に、原発の利点とされた「発電コストの安さ」も、補助金など財政支援や事故が起きた場合の甚大なリスクと引き換えであることが知られるようになった。

 改革の方向性も示した。技術進歩で、巨大な発電設備を前提とした「地域独占」も電力九社体制は、弊害が大きくなったと指摘。太陽光発電や自家発電、蓄電池などを組み合わせたネットワークの自律分散型の電力システムを提言し、「電力への官の介入を跳ね除け、真の民間自立を実現し、国民の手に安全な電気を取り戻さなければならない」と訴える

国鉄民営化によって戦後日本最大の危機を救った加藤寛。米寿を前にして起きたフクシマ原発事故に、これでは日本は破滅する、このままでは死ぬに死に切れないとの強い想いから、慶応屈指のカトカンゼミで育ち各界で活躍する 弟子たちと「緊急ゼミ」を開催してきた。本書はそこから生まれた日本救済の書であり、加藤寛氏の日本への最後通牒となる。

【巻末座談会】
なぜ地域密着の金融機関が脱原なのか 城南信用金庫理事長・吉原 毅
脱原発なんて簡単だ 東京大学大学院教授 江崎 浩
討論型世論調査でわかったこと 慶応大学教授 曽根泰教