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リベルタスの寓話

書名:リベルタスの寓話
著者:島田 荘司
発行所:講談社
発行年月日:2007/10/5
ページ:378頁
定価:1800円+税

『リベルタスの寓話』と『クロアチア人の手』の2作が収められています。ボスニア・ヘルツェゴヴィナで凄惨な切り裂き事件が起きた。心臓以外の臓器が取り出され、電球、飯盒の蓋、籠などが詰め込まれていた。その容疑者はすぐに判明したが、彼には絶対的なアリバイがあった。その難問に天才・御手洗が挑む。セルビア人、クロアチア人の民族の怨念が詰まった作品で、ネット社会で仮想コインを現実の通貨と交換することで逃走資金を稼ぐという設定。クロアチアの歴史的な説明、背景、そして親兄弟でも互いに憎み合う、殺し合う、口にすることもはばかるような現実、それを老人に問い詰めていくところなど迫力があるシーンが出現。人間はかくも残酷になれるものなのか

『クロアチア人の手』はイヴァンとドラガンという、この2人が俳句の賞を貰った副賞に日本にやってくるという物語。密室殺人事件。この二人は一応親友と言うことになっているが、クロアチアでお互いにクロアチア人、セルビア人の関係、過去に民族紛争がもたらした怨念を抱いていた。『リベルタスの寓話』と比べるとスケールが小さい作品。ちょっとレベルが違う作品が2つ並んでいる。最初に『クロアチア人の手』を読んで『リベルタスの寓話』を読んだ方がよく分かるような感じがした。