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終わらざる夏

書名:終わらざる夏(上)
著者:浅田 次郎
発行所:集英社
発行年月日:2010/7/10
ページ:467頁
定価:1700円+税

書名:終わらざる夏(下)
著者:浅田 次郎
発行所:集英社
発行年月日:2010/7/10
ページ:458頁
定価:1700円+税

1945年の夏のお話。
東京の翻訳出版社に勤める片岡は、いずれ妻とひとり息子とともにアメリカへ移住するのが夢だった。後1ヶ月で45歳を迎える片岡に召集令状(赤紙)が来たのは6月の終わり。盛岡出身の彼は青森県弘前に。戦争末期になって一億総招集、45歳のロートルにも赤紙が、丙種合格者にも、退役軍人も軍隊の質も格段に落ちている時期。千島列島の北の孤島・占守島(美しい島)には満州の関東軍から転進してきた最精鋭部隊32000人が集結していた(大本営の作戦失敗、本来ならば南方方面に転進して置くべきだったが、転進させるだけの船舶を確保出来なかった)。終戦を予想していた大本営は終戦時の通訳として英語の堪能な片岡に招集をかけた。これは極秘事項なので偽装をするために医学生菊池と4度目の徴兵となる兵曹(トラックの運転が得意)鬼熊の3人を占守島へ配置した。この3人と関連者を主役に物語が進む。

1945年8月15日――戦争が、始まる。ポツダム宣言を受諾した14日、15日玉音放送後に北の孤島・占守島ではソ連軍が千島列島を自国が支配している地としたいために、海岸線に8000人の部隊が上陸してきた。(国際法違反)武装解除の準備していた部隊は慌てて反撃、そして完璧にソ連軍を破ってしまった。日ソ双方に多くの犠牲者を出し、占守島の戦いはついに収束する。残った日本兵はシベリアに連行された。肉体的にも精神的に厳しい生活のシベリア抑留、医学生菊池は生きる望みを失いかけるが…
「占守=美しい島」で起こった悲惨な戦いを通じ、戦争の真の恐ろしさ、生きることの素晴らしさをうったえる作品です。南方方面、沖縄、満州、中国などは8月15日前後の様子は比較的知らされいるが、北方の千島、そしてソ連の参戦は知られていないことが多い。焼け野原の東京、譲の疎開先、鬼熊らの地元・盛岡の農村など、様々な場所でのそれぞれの「戦争」を、多視点で重層的に描いている。戦争の本質をしっかりと描いている。

『終わらざる夏』公式サイト
http://www.shueisha.co.jp/1945-8-18/index2.html