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嗤う伊右衛門

書名:嗤う伊右衛門
著者:京極 夏彦
発行所:中央公論社
発行年月日:1997/6/20
ページ:385頁
定価:1900円+税

四世鶴屋南北の歌舞伎脚本「東海道四谷怪談」(一八二五年初演)はよく知られた話ですが、その「四谷怪談」をミステリー作家京極夏彦が、新たな解釈をして現代に甦らせた作品。でも「東海道四谷怪談」とは大いに異なる。お岩の凛とした姿が強く残る。直助やお袖、宅悦や喜兵衛、お梅といった南北版の登場人物に、又市、伊右衛門を絡ませた新編四谷怪談を描く。

伊右衛門とお岩が繰り広げる凄惨な怪談話を、伊右衛門とお岩の悲恋の物語として描いている。岩を裏切る極悪人である南北版の伊右衛門がこの物語では運命に翻弄される不器用で実直な侍として描かれる。伊右衛門とお岩は互いに尊敬し、愛していながら運命の流れは逆に、逆にと進んで行く。何とかしようとして深みにはまってしまう。人間のおどろおどろらしさを限界まで描いている。第25回泉鏡花文学賞受賞作品。