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科学・技術の危機再生のための対話 物理学者池内了×宗教学者島薗進

書名:科学・技術の危機再生のための対話 物理学者池内了×宗教学者島薗進
著者:池内 了・島薗 進
発行所:合同出版
発行年月日:2015/10/15
ページ:295頁
定価:2000円+税

3.11の福島第一原発事故以来、専門家と言われた人々の信用は失墜してしまった。薬品会社と科学者の癒着、論文の件数、今役に立つ技術、そして予算が潤沢な研究にのみに走る科学者・技術者また一方では宇宙開発も軍事利用を目的とした研究体制が推進されつつある。東京大学と防衛庁との共同軍事研究なども行われている。科学は今存在理由を問われている。

宗教家の島薗進氏と科学者の池内了氏の対談集です。今すぐ役に立つ、予算が取れる。スポンサーがつく研究しか手を出さない。また出てきた科学、技術の行く末には無頓着、興味もない科学者。社会リテラシーのない科学者。科学リテラシーのない市民、ジャーナリスト。専門に特化して隣の仕事は理解出来ない研究者。そして科学は人間が制御出来ないくらい複雑で巨大なものになってきた。こんな世の中の未来の問題を提起しながら、その解決策の一案を示しながら対談は進む。

「GRAINN」という言葉が紹介されている。これは人間と人工物の境界が見失われつつある領域で、暴走を始めた最前線といえる。Gはゲノミクス、Rはロボット、AIは人工知能、NNはニューロサイエンス(脳科学)とナノテクノロジーで、生命科学や医療の分野が多い。
これらは素晴らしい未来を拓く可能性もあるが、使い方を間違うと大きな脅威になる技術。科学者と当事者の一部だけでどんどん進めてもいい研究ではない。「科学は私たちを幸せにしてくれるものなだろうか?」

基準を守っていたのだから問題はない。「仕方がないことだ、技術に責任はない」という「基準と妥協」が許されない時代になってきている。想定外のことが起きた。原発事故が起こった。でも基準は守っている。一般の人々、被災者ははそれはそれで仕方がないことだ。と割り切ることは出来ない。isp細胞も画期的と言われているが、精子も卵子も作れるとか、そして優秀な人間になる細胞を選別して人間を作ることも技術的には可能となる時代が来るだろう。

それは許されるの?でもそんな技術を持ってしまうと必ず使ってみようという人も出てくる。それが「私たちを幸せにしてくれる」の視点で普通の人達のコンセンサスを得ることを十分検討する必要がある。そして技術開発を進める、中止する、保留にするを選択していかないと制御不能の技術が拡散されることによって益々不幸な世の中が待っている。

複雑系の人間を部品を取り替えることで再生が出来るという短絡した考え方は間違っている。ひとつの要因でひとつの結果が出るという単純な考え方も間違っている。相互に複雑に絡み合って一人一人違った結果が出てくる。でもそれは科学、技術の対象からは外されている。論理的に説明できない。そんな問題が技術が進めば進ほど沢山出てくる。科学が進んだといってもまだまだ知らない、判らない事だらけ。ところがそんな中で判っているように説明し、予算を取ってくる人が優秀な科学者と言われている。この辺も大きな間違い。など考えさせてくれる良書です。


本書より
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科学は「真理発見の知」であるのに対し、技術はそれによる人工物の「創造の知」の発揮であり、人工物が生産や生活に役に立つという意味では技術は社会と強い関係を結ぶことになります。科学は精神的な営みで文化の源泉であり、技術は物質的な営みで文明の基礎となる。---中略----

技術者の発想は「技術の限界は技術で必ず克服できる」というものでそういう強い信念があるからこそ、色々発明されてきたとも言えるでしょう。
---中略----
技術の適用に際しては、必ずある種の「想定」をするわけです。「建築基準」とか「耐震基準」があるように、技術のレベルに基準を設けて、それをクリアしておればよいとするのです。私はそれを「妥協」と呼んでいます。ある線を引いて割り切るわけです。割り切らなければ、技術は行使できないためです。
---中略----
つまり、この基準を満たしていれば合格であり、基準を上回る事態が発生すれば「想定外」だから仕方がないとして処理されます。たとえ基準がいかに時代遅れになっていようと、基準を守っていたのだから問題はない。「仕方がないことだ、技術に責任はない」という割り切りの発想が技術者にあると思います。

天笠啓祐氏推薦 2016年の「科学技術」を読み解く3冊
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/172553?pc=true