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原発訴訟が社会を変える

書名:原発訴訟が社会を変える
著者:河合 弘之
発行所:集英社
発行年月日:2015/9/22
ページ:216頁
定価:740円+税

3月1日、大津地裁(山本善彦裁判長)が3、4号機の運転差し止めの仮処分を命じる決定を下した。
昨年4月14日に福井地裁が高浜原発再稼働差し止めの仮処分を決定した。この際、樋口英明裁判長(当時)は想定を超える地震が各地で起こっていることを挙げて、原子力規制委員会の新基準が「合理性を欠く」と政府の原発政策の根本に異を唱えている。

この裁判の弁護士として原発訴訟に関わった著者の本です。昨年の樋口英明裁判長は左遷(名古屋家庭裁判所)され、変わった福井地裁が再稼働容認の判決が出た。その後を受けて、地元ではない滋賀県民などが大津地裁に再稼働差し止めの仮処分を求めた裁判で今回初めて稼働中の原発が止まることになった。

この本は昨年の裁判の戦い方を法廷戦術や訴訟の舞台裏を公開している。長い歴史のある原発訴訟ですが、殆どが負けばかり。今までの安全議論は架空の話、仮定の話になってしまう。安全に絶対はないが、確率17万分の一の故障率、技術は設計基準を設けてそれに適合していることで良しとしているが、想定外の事の前には全く手足がでない。したがって電力会社側が御用学者、政府、官僚を味方に安全・安全を繰り返し、その反論は裁判では認められなかった。

しかし実際に福島第一原発事故が起こったことで、一度事故が起こると、現場検証にも入れない。10万人以上の住民は5年経っても元住んでいた街、家には戻れない。原爆はその破壊力で一気に10万人以上の人が亡くなってしまう。が原発の事故は原子炉の近くにいる人々(原発関係者)が強度の放射能で命をなくすことはあるが、離れた住民はその場では亡くならない。(距離の2乗に反比例して放射線が弱くなるから)でも福島第一原発事故でも判るように土地は汚染されて、緊急避難を強いられる。そしてそれは戻るあてのない長い長い避難となってしまう。これは異常だと思う。

人々の豊かな平和な安全な生活からはほど遠い結果になってしまった。この実例が裁判官のほんの少しの人ですが判る、理解出来る人が出てきたことではないか?

通常技術は色々な失敗、事故などをフィードバックして改良、改善して、次に挑戦して段々安全で信頼性の高いものにして来た歴史がある。でも原発は最悪の状態が悪すぎる。その最悪の事故を経験として、次に良いものを作るという今までの技術の手順を許されない。そんな最悪の状態を迎える。技術に想定外はつきものですが、この想定外というのは許されない。

(耐震500ガルに耐える設計をしても実際は3000ガルが来たとき、メルトダウンによって放射能が大量に漏れてしまう)こんなことは許せない。信頼性を考えるときにフェールセーフという考え方なども想定内のことしか考えていない。電源の二重化、三重化など次々と故障を想定してそれに対応を取れるように考えられていた。福島第一原発事故もでもダメだった。(ダメだったでは許せない)航空機事故なども事故が起きて墜落全員死亡ということもあるが、便利さと技術との妥協の上でそれを許している。自動車も同様。(でも誰に相談した。また誰が納得したかは知らない)

そんなことが一般の人にも判って来た。裁判官の中にも技術的な話は分からなくても、一度事故が起きたらどうなるか。ということが判って来た。この本で述べている「福井地裁が高浜原発再稼働差し止めの仮処分を決定した」もこの本が出てから「再稼働差し止めの仮処分」の取り消しを別の裁判長によって決定され、関西電力では1月再稼働した。でも原発訴訟の流れが変わってきている。技術、基準とは別の視点から考える。攻める。

そして現実に起こったことをじっくりと検証していけば未来は見えるのではないかと思う。電力会社・御用学者・官僚の醜態が見えてくる本です。3月の大津地裁の決定も裁判長を左遷して対抗してくるのでしょう!今の日本には三権分立というのは絵に描いた餅にしないで欲しい。それを願うばかり。裁判長もまた国家公務員。長いものには巻かれろか?人事権を政府に持たれては三権分立など夢のまた夢。こんな事を問題にする人がいないのが哀しい。

今週の本棚・新刊:『原発訴訟が社会を変える』=河合弘之・著 - 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20151206/ddm/015/070/012000c
原発「運転差し止め訴訟」で戦う弁護士に会ってきた 司法の世界を飛び出し、自ら映画も制作
https://gunosy.com/articles/RYHb1
高浜原発再稼働停止命令 神との対話 預言者のコラム
http://yhwh.at.webry.info/201603/article_6.html