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人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病

書名:人体600万年史(上) 科学が明かす進化・健康・疾病
著者:ダニエル・E・リーバーマン
訳者:塩原通緒
発行所:早川書房
発行年月日:2015/9/25
ページ:332頁
定価:2200円+税

書名:人体600万年史(下) 科学が明かす進化・健康・疾病
著者:ダニエル・E・リーバーマン
訳者:塩原通緒
発行所:早川書房
発行年月日:2015/9/25
ページ:349頁
定価:2200円+税

「進化とは時間を経ての変化」「進化とは自然選択をのみを通じておこる仕組み」非力な人は何故厳しい自然選択を生き残れたのか?

われわれの遠い祖先が直立二足歩行を始めた瞬間、人類が類人猿と分岐したのは600万年前、そこから新しい行動様式、環境順応力とともに人類が獲得してきた適応行動を進化の歴史を辿りながら説明している。400万年前にはアウストラロピテクス、250万年前にはホモ属が登場して地球上の各地に散らばった。(アフリカから)さらに、20万年前にようやく、われわれの種であるホモ・サピエンス(現生人類)が出現した。この長い長い時間を費やして、自然選択(環境変化)の作用を受けて適応行動を取れる身体の基本的な仕組みを獲得した。狩猟採集民として適応できるように。

私たち人間は、健康になるように進化したのではない。困難の多い多様な条件のもとで出来るだけ多くの子を持てるように自然選択の作用を受けたのである。

ところが、1万年前から農耕の発明によって、それまでとは全く違った生活をするようになる。農耕は食料の確保の容易さ、食べ物の種類のシンプル化、人口の増大、人口密度の増大と種を残すには最適なメリットがあった。しかしデメリットもあり、いもなど澱粉を食べることで歯痛、軟らかい食べ物が多くなることによって顎の弱体化、そして親知らずがとんでもないところから生えてくる。人口が増えた、密集して生活することで感染症の増大、衛生状態の悪化、それらによって絶滅の危機、250年前の産業革命、その後の科学技術の発達で人類の環境は極端に変わった。

感染症の撲滅、衛生状態の改善によって寿命は延びたが、慢性病に悩まされることに。人類の進化の方向とは違う生き方を1万年ほど前からとってきた。それらによってミスマッチ病が蔓延することになった。糖尿病にしても対処療法、慢性病も対処療法、進化の歴史、人類の遺伝子から根本原因を探り、現代病に対処する方法を模索している本です。この本はじっくり読むと何故人は生きるのか?生きるとはどんなことか?地球規模の歴史を振り返ることで深い深い思索を得ることが出来る。

初心にもどってじっくりと考えると遺伝子操作、遺伝子工学など本の少し判っているに過ぎないことがみえてくる。産業革命以降の流れが人類にとって適切なのか?これから人類はどのように進化していくのか?哲学的な思索も出来るなかなか面白い本です。簡単に言うと人類は最初から設計されて作られた者ではなく、環境の変化に対応出来るように出来ていて遺伝子のスイッチを入れる、切るという選択を行ってその時代(これは長い長い年月)を生きてきた。これだけでもキリスト教の言うところの神が作ったというのはちょっとおかしいことがわかる。

本書より
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私たち人間は、健康になるように進化したのではない。困難の多い多様な条件のもとで出来るだけ多くの子を持てるように自然選択の作用を受けたのである。私たちは何不自由ない快適な条件のもとで何を食べ、どれだけ運動するかについて、合理的な選択できるようには進化していない。そしてさらに重要なことに、私たちが受け継いだ身体と、私たちが築いている環境と、私たちがときに選んでしまう判断との作用によって、いつのまにか危険なフィードバックループが動きだしてきた。私たちが慢性病にかかるのは、人間が進化の過程でしてきた行動を、身体があまりよく適応していない条件のもとでやってしまうからであり、しかも私たちがそれらの条件をそのまま子供たちに受け渡すので子供もまた同じ病にかかってしまうのだ。この悪循環を断ち切りたいなら、どうにかして丁寧かつ賢明に、軽い後ろ押しや、強い勧め、あるいは強制的な義務化も駆使して、人々にもっと健康を増進する食物を食べること、もっと活発に身体を動かすことをやらなければならない。その2つの行動もまた私たちが進化の過程で紛れもなくしてきたことなのである。


書評:人体600万年史?科学が明かす進化・健康・疾病(上・下)
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2015111500004.html
現代病の遠因は進化との「ミスマッチ」にあり 『人体600万年史(上・下)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5798?page=1