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殿様の通信簿

書名:殿様の通信簿
著者:磯田 道史
発行所:朝日新聞社
発行年月日:2006/6/30
ページ:254頁
定価:1300円+税

「元禄大名243人の人物評価を記した『土芥寇讎記』から、徳川光圀、浅野内匠頭と大石内蔵助、池田綱政、前田利家、前田利常、内藤家長、本多作左衛門などの殿様たちの日常生活、人物評、時代背景などを判りやすく書かれている本です。『土芥寇讎記』とは元禄期に諸大名の人物評価、諸藩の内情をまとめてある書で、隠密が諜報活動で得た情報をまとめたものであろうということ。しかし詳細は不明の書、現在東京大学史料編纂所に1冊しか存在しない書。(戦前は広島浅野家が持っていたが原爆で焼かれてたしまった)またこの史料は誰が何の為に書いたか、背景は?などまだまだ研究されていない。この内容についての真意は分からない。

でもこの本は『土芥寇讎記』の中から関連する話を紹介しながら徳川光圀他を説明している。

徳川光圀は、一般的には水戸黄門で知られる。この黄門とは中納言の別称である。
光圀は形而上の観念世界に没入する性質をもっていたらしく、次男である(本当は三男らしい)自分が家を継ぐのではなく、兄が正統を継ぐべきだとして兄の子に継がせようと実行している。

だが、「悪所に通って」いたという。この場合の悪所とは遊郭に通って、遊女を買って、酒宴に興じているというわけである。江戸時代の倫理感覚では、能を除くあらゆる芸能は「悪」であった。だから、芝居小屋とかも「悪所」である。好奇心の強かった光圀は学問・芸能はもとより名高い人物に会わないと気のすまない性質であった。とはいえ、身分がある。会う場所が難しのだ。会うとしたら茶室か、遊郭くらいしかなかった。ちなみに、江戸初期の遊郭は文化サロンの一つであった。

浅野内匠頭は死んでから有名になっているが、松の廊下の刃傷沙汰以前のことは殆ど判っていない。しかし『土芥寇讎記』には「長矩、女色を好むこと切なり」利発であるが異常な女ずき、昼間にも奥に引きこもって女といちゃついている。藩政には見向きもしない。大石内蔵助が藤井と代行していた。下女とのもめ事を起こし赤穂藩はそのうち取りつぶされるとの噂さえある。「忠臣蔵」は普通に考えれば一番割の合わなかった人が吉良上野介(この人はなにも悪いことしていない)でも何故か仇討ちの敵役。家老の大石、藤井が殿様をちゃっと教育していれば松の廊下の刃傷沙汰は起こらなかった。これも馬鹿家老。その大石のリーダーシップを褒めそやす歌舞伎、講談は???

なんてことをこの本は詳しく教えてくれる。

曹源公こと池田光政の息子池田綱政(岡山の二代藩主)である。「生まれつき馬鹿」と書かれた珍しい殿さま。父・池田光政が名君過ぎてその対比で誇張されたのでしょう!
父・池田光政は参勤交代に文庫を持参して籠の中で本を読んで退屈な時間も無駄にせず励んだ。しかし池田綱政は公家の好む遊興に興ずる。そして女好きこどもが70人いる。池田光政の時代は幕府も安定せず、武が優先の時代、でも二代のころになると徳川幕府も安定してきて、遊興に遊ぶ余裕の出来た時代になってきた。現在の人々が食べることに汲々とせず、遊びに興ずることができるように大名世代にもそんな人々が出てきた時代だったのでは?

当時の4名君は水戸光圀、保科正之、池田光政、前田綱紀。そんな人達と比べられてはたまらない。でも池田綱政は著作も残し、字も旨かったようです。知らなかった事実が次々と出てきて面白い、また説明が簡潔で判りやすい。


一橋大学の研究で「土芥寇讎記」の資料的位置づけについて調査している。
HERMES-IR : Research & Education Resources: 「土芥寇讎記」の基礎的研究
https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/16641

国立国会図書館デジタルコレクション - 土芥寇讎記
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2990558
土芥寇讎記 金井圓校注(史料叢書)新人物往来社, 1985.7

『土芥寇讎記』(どかい こうしゅうき)
『孟子』巻八「離婁章句下」第二段の
君の臣を視ること手足の如ければ 則ち臣の君を視ること腹心の如し。
君の臣を視ること犬馬の如ければ 則ち臣の君を視ること国人の如し。
君の臣を視ること土芥の如ければ 則ち臣の君を視ること寇讎の如し。
から取られたと推測される。
記述内容から元禄3年(1690年)から4年にかけて脱稿したと思われる。
原本は和綴本全43冊、首巻に総目録、第1巻が徳川将軍家の始祖新田義重から家康までの略伝、第2巻~第42巻に支藩を含めた諸大名242人について、親藩を先に、次に諸藩(譜代と外様の区別無し)の順に記述されている。諸藩の中の順は、ほぼ石高の高い方から降順に記述されている。

本書より
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目次
はじめに
徳川光圀――ひそかに悪所に通い、酒宴遊興甚だし
浅野内匠頭と大石内蔵助――長矩、女色を好むこと切なり
池田綱政――曹源公の子、七十人おわせし
前田利家――信長、利家をお犬と申候
前田利常 其之壱――家康曰く、其方、何としても殺さん
前田利常 其之弐――百万石に毒を飼うべきや
前田利常 其之参――小便こらえ難く候
内藤家長――猛火のうちに飛入りて焚死す
本多作左衛門――作左衛門砕き候と申されよ
あとがき