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ようこそ、わが家へ

書名:ようこそ、わが家へ
著者:池井戸 潤
発行所:小学館
発行年月日:2013/7/10
ページ:445頁
定価:695円+税

父親譲りの真面目なだけが取り柄の会社員・倉田太一(大手銀行の青葉銀行からナカノ電子部品に出向して総務部長52歳)は、ある夏の日、代々木駅のホームで割り込み男を注意した。すると割り込み男(名無しの男)は倉田太一をつけて、センター南駅(倉田太一の最寄り駅)にいた。そして同じバスに乗って来た。恐怖を覚えた倉田太一はいつもとは違ったバス停で降りて逃げ出す。息せき切らせて走った。そして後ろからの足音がなくなったところで、自宅へ歩いて帰った。(名無しの男)をまくことが出来たと一安心して寝る。

でも翌朝から倉田家に対する嫌がらせが相次ぐようになる。妻の丹精を込めたダリヤの花壇は踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれた。さらに車は傷つけられ、部屋からは盗聴器まで見つかった。サラリーマンは電車に乗って通勤をしている。そして毎日多くの人を見ている。しかしそれは自分から見れば名無しの人々(勿論自分も)。でもちょっとしたきっかけ(割り込み男を注意した)で妻と息子、娘を巻き込んで倉田家に訪れた恐怖のストーカーが始まった。執拗に続く攻撃から穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカーとの対決を決意する。一家の住むところに港北ニュータウンのセンター南駅、鴨池公園近くを設定している。

一方、出向先のナカノ電子部品でも、倉田は社長の覚えの良い営業部長に不正の疑惑を抱いたことから、段々社内で孤立化して窮地に追い込まれていく。誰にもありそうな“身近に潜む恐怖”を描いている。倉田一家の物語とナカノ電子部品にまつわる物語が同時進行していく。企業小説、経済小説、私小説、そしてサスペンスありとこれらが交差しながら読者を引き込んでくれる。これは池井戸潤の傑作の一つではないかと思う。

港北ニュータウンのセンター南駅、鴨池公園が舞台も興味を持って読めた。