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黄金の時

書名:黄金の時
著者:堂場 瞬一
発行所:文藝春秋
発行年月日:2015/6/10
ページ:314頁
定価:1650円+税

1964年日本初のメジャーリーガーとなる南海ホークスの村上雅則。その前の年1963年にマイナーリーグ・サクラメント・ゴールドハンターズで野球をする一人の日本人がいた。

売れっ子作家本谷要は、音信不通(父は作家のような不安定な職業を嫌っていた。親子関係は険悪状態)となっていた商社マンの父の訃報を聞き、心ならずも遺品の整理をすることになってしまった。その中に一枚の写真を見つける。そこにはマイナーリーグ・サクラメント・ゴールドハンターズで野球をする若き日の父があった。今まで全く知らなかった過去の父、仕事一筋で商社マンとして世界を飛び回っていた、副社長まで出世していたが、要は全く父とは没交渉、興味も持っていなかった。「野球嫌いのはずの父は、昔マイナーリーガーだった」に興味を持った要は父のことを調べ始める。きっかけは当時ゴールドハンターズを取材していた地元紙の記者からの1通のメールから。

高校生の時に父・総一郎は母が亡くなる。そして父(祖父)はアメリカに。卒業まで日本で一人暮らす。そして高校野球に励む。強豪校でレギュラーとして甲子園にも出場している。強権的な父親の指示でアメリカで大学に入り商社マンになることを“強制”された。アメリカに渡り、大学に入るためにハイスクールに通う。そんなとき草野球でホームランを打った。そのホームランはちょうど見に来ていた大リーガーヤンキースのマイナーでスカウトの外野フェンスから離れたところにあった車のボディーを直撃した。そのスカウトは総一郎にマイナーリーグ(「1A」)にこないかと誘いかける。マイナーリーグ”は、三層構造で下から「1A」、「2A(ダブルエー)」、「3A(トリプルエー)」になる。その上が当然“メジャーリーグ(世界最高峰)”となる。

祖父に反抗し、異国の地で新たな野球の魅力に取りつかれていた父は祖父に黙ってマイナーリーグに行く。たった3ヶ月のマイナーリーグであったが、サクラメント・ゴールドハンターズはその年は優勝争いをする強豪チーム。同僚達は総一郎から見れば凄い連中、その中に混じって総一郎が3ヶ月の試合に参加していく、そして自分だけ、自分の成績だけ。チームが負けても自分の成績をあげて上に行くことだけを考えている同僚達を変えていく過程を綴っている。

要がアメリカに渡って生きている元の同僚を訪ね調べ回った。父の軌跡を描いている。本谷家の父子3代の物語。どの父子も不器用な男たちを野球を通して描いた感動の物語。