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本に出会う

姉・米原万里

書名:姉・米原万里
   思い出は食欲と共に
著者:井上 ユリ
発行所:文藝春秋
発行年月日:2016/5/15
ページ:223頁
定価:1500円+税

15年ほど前武蔵工業大学(現東京都市大)の市民大学講座で「米原万里」の講演を聞いたことがある。多分50歳前後の頃だった。当時ロシア語通訳者とともに作家として「不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か(読売文学賞)」を書いて衝撃的な文壇にデビューしてすぐの頃だったと思う。米原万里の視点は非常にユニーク、そして辛口の発言、印象深い人で一度聞いたら忘れない。そんな人。

縁あって、4,5年前、著者の「井上ユリ」の講演を聞いて、その後知人のお宅で一緒に食事をしたことがある。先日5/11、あざみ野の山内地区センターで定例で開かれいる「あざみ野ブックカフェ」の開館40周年記念特別版として催された「岩波書店編集者小島潔、料理研究家井上ユリ」の対談を聞いた。

井上ユリさんは米原万里の妹で、作家井上ひさしの奥さん。そして自身は料理研究家として活躍されている。
対談は小島潔がユリさんに質問して答える形式で行われた。

「わたしたちの40年」同世代のおふたりが語る、この40年の心躍る出会いの数々、ユリさんの近著「姉・米原万里」にまつわる思い出話も。岩波書店編集者小島潔さんは若い頃、岩波書店で「井上ひさし」の担当になった。ときの話として遅筆で有名な「井上ひさし」は岩波には納期遅延を起こしたことがない。そして他の出版社から羨まれた。井上ひさしと言えば、本でも脚本でも遅延、遅延で劇も中止・延期になったこともたびたびだった。何故か岩波書店だけは大事にしていたようだ。

「不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か」は米原万里の傑作、異文化の摩擦点にいた同時通訳の現場そんな緊張が続く中で思わぬ事態が出来する。そんな失敗談、珍談、奇談を公開した作品。面白い作品です。米原万里とユリの姉妹は小学生の頃、父の仕事(戦前の共産党員で地下活動を15年送っていた。戦後共産圏へ日本共産党として派遣)関係でチェコスロバキアのプラハで小学校時代を過ごす。共産圏で経験したことと日本に戻ってきた時の違和感、食べ物の違い、考え方の違いなどをエッセー風に、万里はこうだった。でもユリは違うことを考えていたとか、全く同じだったとか。
プラハでのソビエト学校時代で本を片っ端に読んでいた万里、ユリはそれほどでもソビエト学校は読書感想を求めない。自分が読んで何を理解し、何が判らなかったかを司書に話してお仕舞い。こどもは読書感想を求められたら本を嫌いになって一生、読まなくなってしまう。本は感想を書くより、何かを理解できれば良いもの、また後で試験などいらない。

「岩波書店編集者小島潔、料理研究家井上ユリ」の対談は万里のこと、井上ひさしのことユリのことを知っている人には面白い対談でしたが、知らないと話が飛びすぎてなんのことか判らない部分も多くあったのではないかと思います。この本を読むとあの対談の中身が見えてくると思います。

本書より
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プラハの小学校時代、レーニンの映画を観ては一緒にじゃがいもと卵をゆでて貪り、のちに椎名誠を読んでは時間差でカツ丼を食べに走り、姉・万里の思い出はいつも食べ物と分かちがたく結びついている。プラハの黒パン、ソーセージ、鶏卵素麺、チェコの森のキノコ、父の味・母の味、「旅行者の朝食」や「ハルヴァ(トルコ蜜飴)」など、食をめぐる名エッセイの舞台裏を明かす、米原ファン垂涎の一冊。2016年5月で没後10年となる米原万里の著作を振り返りつつ、新たなエピソードを紹介するユニークな回想録。
家族の蔵出し写真も多数収録。