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独走

書名:独走
著者:堂場 瞬一
発行所:実業之日本社
発行年月日:2013/11/5
ページ:375頁
定価:1500円+税

「スポーツ省」が存在する日本という舞台、次のオリンピックで金メダル倍増計画を掲げて、莫大な予算を投入、アスリートを選別、管理、育成するスポーツ省。オリンピックで2回金メダリストになった柔道選手沢居弘人を、高校生ランナー仲島雄平にサポートするようにスポーツ省に招聘するところから始まる。

沢居は小学生の頃からスポーツ省の特別強化指定選手(ステートアマ・通称SA)で、2回のオリンピックで金メダルを獲得して引退したばかりの選手。仲島は世界で戦えるポテンシャルを持つ選手で最近SAに指定された。ところが仲島はメンタルが弱いという致命的な弱点があった。そんな仲島に次回のオリンピックで金メダルを獲らせるというミッションが沢居のやるべき事。

金メダル倍増計画はちょっと一昔前の感もいがめないが、スポーツで金メダルと取るためには国家の後押しがないと厳しいことも事実、アスリートの感情は無視した強化指定、結果を重視する官僚的な考え方、双方の矛盾を抱えながら物語は進む。スポーツを題材にした小説です。ちょっと無理なところもあるが、「強い日本の国際競争力の象徴であり、最先端科学を融合した現代のスポーツは、国力が問われるのだ。選手が活躍すれば日本に対する国際社会の見る目が変わり、スポーツ産業の更なる輸出促進にも繋がる。それゆえ、オリンピックのメインポールにできるだけ多くの日の丸を掲げることは、最重要な日本の国策である」という意識、アスリート以外の関係者の素直な気持ちかも知れない。

そして長距離ランナーの仲島雄平の意外な行動は!仲島雄平が楽しく走れる。国をかけた強化費(税金)を投入して一流選手だけに配分するのではなく、幅広く一般人にスポーツを楽しんでもらうという視点を仲島雄平の行動は示唆している。アスリート不在の2020年の東京オリンピックに一石を投じている。現在の東京オリンピックに対する政治、スポーツ団体、サポート団体などの動きと比べてみるとはっきりと輪郭が見えてきてどうも間違った方向に向かっていることが実感できる。