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魔女の1ダース

書名:魔女の1ダース
   正義と常識に冷や水を浴びせる13章
著者:米原 万里
発行所:新潮社
発行年月日:1996/1/1
ページ:294頁
定価:476 円+税

魔女の世界では「13」が1ダースなんだそうな。キリスト教の世界では13は嫌われる言葉。でも日本では13詣りなどめでたい言葉。この世にはあなたの常識を超えた別の常識がまだまだあるのです。異文化間の橋渡し役通訳を生業とした米原万里のエッセー集です。言葉や文化の違い、その不思議さ、奥深さが良くわかります。愛には2種あるらしい。有償の愛と無償の愛と普通は有償の愛。短編ですがなかなか面白い本です。

本書より
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ゴルバチョフが死んで地獄に落ちた。門番はニヤリと笑って「あなたも罰をうける時がきた」と言う。そこでどんな罰があるのかと地獄をツァーしてみると、なるほどレーニンは針の山でもがき、スターリンは釜ゆでされ、フルシチョフは鉄球を引きずっている。ところがエリツィンはマリリン・モンローと抱き合っている。ゴルバチョフはうれしさを押し隠し、「私もこの罰でいい」と言った。ところが門番は「そりゃダメです」とニベもない。訝かるゴルバチョフに、門番は言った、「あれはエリツィンではなく、マリリン・モンローが受けている罰なんですから」。

ある国や、ある文化圏で絶対的と思われてきた「正義」や「常識」が、異文化の発想法や価値観の光を当てられた途端に、あるいは時間的経過とともにその文化圏そのものが変容をとげたせいで、もろくも崩れさる現場に何度立ち会ってきたことだろう。一方で人間は常に飽くことなく絶対的価値を求めてやまない動物なのだから困ったものである。

戒律や法令などで供給が禁じられたり、抑制されることによって、欲望が逆に膨らんでいくという経験は、禁煙を試みた方には十分に馴染みの現象かと思う。

この時は酒類ばかりか、あらゆる酒類代替品すなわちアルコールを含有する化粧品類も、自家製ウォトカの原料となる砂糖も軒並み商店の棚から姿を消してしまったものである。砂糖を水に溶かし、そこにイーストを混ぜると発酵して酒になるからだと、ロシア人が教えてくれた。

「われわれは親の側が子どもが迷子にならないように配慮するあまり、子ども自身の迷子にならないようにという注意力と努力の余地を奪っているのです。ジプシーは親がそんな気配りをしないおかげで子どものほうにその能力が育つのです。迷子をつくらないためには、そのほうが確実なのです」とニキーチン氏は結んだ。

その育児法の基本的な特徴は、いかに本来幼児が秘めている能力をスポイルすることなく最大限引き出し、伸ばしていくかにある。しかも子どもの能力の発見と開発は、早ければ早いほどよろしいという。ニキーチン夫妻によると、文明が成熟した国ほど子どもを過保護に扱い、その事によってかえって子どもの能力の芽を摘み取っている。