書名:秋萩の散る
著者:澤田 瞳子
発行所:徳間書店
発行年月日:2016/10/31
ページ:237頁
定価:1,500 円+税
著者が得意とする奈良時代を舞台とした珠玉「凱風の島」「南海の桃李」「夏芒の庭」「梅の一枝」「秋萩の散る」の5編、漢語、言葉の使い方が巧みで長編に匹敵する読み応えのある作品衆です。
「凱風の島」
6度目の日本渡来に挑む鑑真を乗せて4艘の帆船は、沖縄に到着した。玄宗皇帝の許可なく鑑真を乗せた副使・大伴古麻呂と遣唐大使・藤原清河は日本に鑑真を同伴するか否かでもめている。先の船に遣唐大使・藤原清河、最後の船に副使・大伴古麻呂が鑑真を乗せ出発するが?唐に30年間滞在し唐で大出世した阿倍仲麻呂なども登場。鑑真和上の来日秘話
「南海の桃李」
吉備真備は遣唐使の航海が命がけの仕事、何とか少しでも安全に航海が出来ないかとひとつのアイデア(南海の200ある島々に、漂流船に場所を知らせる目的で石碑を建てること)を高橋牛養に告げる。高橋牛養は太宰府に赴任した。そして石碑を建てるべく南海の島々を巡っている。次の帰路、島にたどり着いた真備は碑がないことに愕然とする牛養が碑を建てなかった理由はなにか?
「夏芒の庭」
有力な子弟でなくても成績優秀であれば入学かなう大学寮、でもここに在学している4年目の上信は落ちこぼれ、四書五経など理解できない。そこに日向の秀才雄依がやってくる。そして同室となる。上信や雄依たちは権力闘争の死闘(藤原仲麻呂を中心とした陰謀)を目の当たりにする。ある者は巻き込まれ、またある者は世の不条理を学ぶ。
「梅の一枝」
文筆にたけた石上朝臣宅嗣は、宮中で「文人乃首(文人の筆頭)」の名をほしいままにしていた。そんな宅嗣の前に久世王が現れる(母親は石上朝臣宅嗣の従姉であるという)、そして久世王は安倍女帝(孝謙天皇)の異母弟ともいう。久世王の存在を安倍女帝に知られたら、久世王の命を狙われ、石上朝臣宅嗣にも類がおよぶかもしれない。何か手を打たないといけないが?
「秋萩の散る」
安倍女帝(孝謙天皇、後の称徳天皇)の寵愛により比肩する者のいない高職についた道鏡。天皇の位までも自分のものにしようとしたと悪名高い道鏡。女帝の崩御後、下野国薬師寺に配流された。そこには臆病な道鏡、自分から望んで出世したのではなく、女帝の意志だと。しかし女帝を悪くいう世間には全て道鏡が悪名を背負ってあの世に行こうとしている老僧として描かれる。でもその道鏡に悪魔のささやきが。
これらの短編が時代順に並べられており、奈良時代の時代感覚が分かるようになっている。読み応えのある本です。また著者の視点で捉えた奈良時代感が堪能できる名作です。