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乾山晩秋

書名:乾山晩秋
著者:葉室 麟
発行所:角川書店
発行年月日:2005/12/25
ページ:344頁
定価:590 円+税

尾形乾山のことは知らない人が多い。尾形光琳の弟で陶工でる。弟が焼いて光琳が絵付けをするといった作品も残っている。天才絵師の兄・光琳が没して陶工としての限界を感じていた乾山の晩年を描いた「乾山晩秋」。光り輝く天才絵師光琳、それに対して乾山は?世の中光り輝くものばかりではない。光があれば影もある。輝く光を支えているのは影、それは光琳にとっては乾山が支えていたのではないか?

他4篇の短編集戦国時代から江戸時代の絵師を描いた「永徳翔天」「等伯慕影」「幸信花匂」「一蝶幻景」。
「永徳翔天」
天才絵師と謳われた狩野永徳、狩野派の一団を率いて信長、秀吉の御用絵師として活躍。安土の天守閣の障壁画制作を一手に引き受ける。見事な障壁画が完成した。狩野永徳とその活動を描く。

「等伯慕影」
能登七尾の七人衆が鷹を献上すべく甲斐の武田信玄の元を訪れる。長谷川又四郎(等伯)も加わる。彼の役目は信玄の肖像を描くこと。この肖像を描いたことで等伯は信玄より碁石金(碁石のような金塊)を褒美を貰う。碁石金によって京に出ようとする等伯は、雪の山中でとんでもない目にあう。この時描いたのが高野山成慶院にある「信玄公寿像」

「雪信花匂」
狩野探幽の高弟の中でも四天王と言われた守景と国(探幽の妹の娘)との間に生まれた娘が雪。子供の頃から絵の才能を発揮し、父親の指導を受ける。17歳の時、探幽の直弟子に、20歳を迎えると、探幽から一字を拝領し、清原雪信を名乗り、女絵師として頭角を現す。兄弟弟子で幼なじみの守清と禁じられた恋仲に。

「秋野には 今こそ行かめ もののふの 男女(おとこおみな)の 花匂見に」

「一蝶幻景」
絵師の多賀朝湖、のちの英一蝶。五代将軍綱吉の時代、江戸城大奥での争いに巻き込まれた朝湖は罪人として三宅島に遠島の刑、11年に及ぶ苦難の島生活から江戸に帰還、時に58才。名前を英一蝶に変え、新たな絵師として生きていこうとしている。芭蕉庵での其角、芭蕉など登場人物も豊富。

この5つの短編集の裏に流れているのが忠臣蔵。四十七士の討ち入りにまつわる話。例えば尾形光琳は四十七士を支援していた。ある親王は資金の提供もしていた。などなど。葉室麟の初期の頃の作品。現在の作品群を予想させる力作だと思う。