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いのちなりけり

書名:いのちなりけり
著者:葉室 麟
発行所:文藝春秋社
発行年月日:2008/8/10
ページ:255頁
定価:1500円+税

願わくは 花の下にて春死なん 
その如月の望月のころ     「古今和歌集」西行法師

春ごとに花のさかりはありなめど 
あひ見むことはいのちなりけり    「古今和歌集」読み人知らず

雨宮蔵人は小城藩(佐賀鍋島藩の支藩)の重臣で、龍造寺家庶流で武勇の名が高いことで知られる、天源寺刑部の娘咲弥(1年ほどで夫に死なれた)の入り婿となる。祝言の夜、刑部の娘・咲弥から投げられた一首の和歌をめぐり、ひと組の夫婦が辿る数奇な運命を描く。

咲弥から投げられた一首
願わくは 花の下にて春死なん 
その如月の望月のころ     「古今和歌集」西行法師

藩主の命令で義父の天源寺刑部に切腹をすすめざるを得なかった雨宮蔵人。しかし、刀で切られた天源寺刑部を残して失踪してします。雨宮蔵人と咲弥の二人はお互いそれぞれ離れて、咲弥は水戸家の奥女中をとして江戸つとめ、雨宮蔵人は京都で公家の警護役をつとめる。綱吉、母桂昌院の従一位に叙せられるための運動、柳沢吉保、吉良上野介義央、また水戸光圀などが絡み合いながらこの夫婦に関連を持ってくる。鍋島藩の「葉隠」を思わす雨宮蔵人の生き様が描かれている。

雨宮蔵人が命をかけて和歌を探し出し「咲弥」と再会を果たす。
春ごとに花のさかりはありなめど 
あひ見むことはいのちなりけり    「古今和歌集」読み人知らず

本書より
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物語●元禄七年十一月、水戸屋敷で先代藩主水戸光圀は、交際のある大名、旗本を招いて、自ら能舞台で「千手」を演じた。その後、光圀は中老藤井紋太夫を呼び、手討ちにする騒ぎを起こした。
その翌日、水戸家の奥女中取締の咲弥は、光圀の命で十六年前に別れた夫を江戸に呼び寄せることになった…。
雨宮蔵人が天源寺家の入り婿になったのは、十八年前の延宝四年の一月のことだった。咲弥の父、天源寺刑部は佐賀小城藩で家中筆頭、これに比べ、蔵人は七十石の家の部屋住みに過ぎなかった。
しかも、齢二十六となっても取り立てて評判になったことのない凡庸な大男で風采もすぐれない。角蔵流という組み打ちが取り柄というぐらいで、周囲はこの婿入りを不審に思っていた…。