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行きゆきて峠あり

書名:行きゆきて峠あり(上)
著者:子母澤寛
発行所:講談社
発行年月日:1995/06/20
定価:718 円+税

書名:行きゆきて峠あり(下)
著者:子母澤寛
発行所:講談社
発行年月日:1995/06/20
定価:718 円+税

子母澤寛、本名梅谷松太郎。戊辰戦争の終盤、箱館にはしって五稜郭に立て籠もり、薩長主体の政府軍に抵抗、徳川武士の最後の意地を示した榎本武揚、晶平こう通いの一七才の少年時代から、堀織部正に見出されて小姓として蝦夷地へ随行、帰って海軍長崎伝習所に入り、その後更にオランダに留学、帰国して海軍副総裁に就任、そして箱館で抗戦、降伏、辰ノ口牢収監の三十六才までの波乱の前半生を描いた本格的歴史小説です。
 榎本武揚が主人公ですが、彼を取り巻く人物群像も生き生きと物語の中を闊歩している。榎本が一人際だっているのではなく、侠客柳川熊吉という狂言回してき存在も爽やかに描かれている。もともと五稜郭の攻防は最初から仕組まれたシナリオがあって、榎本武揚、永井玄蕃、松平太郎と政府軍黒田清隆、田島圭蔵との間で終結方法をあらかじめ決めたパーフォーマンスという説もまた西郷隆盛、勝海舟の江戸城の無血開城も初めから決められたシナリオ。でもそこに到までの無名の人々の影での活躍もあったとか?子母澤寛という作家はなかなか手に取る機会の少なかった作家で、活躍されていた当時は若すぎて面白さが分からなかったのかもしれません。今読んでみるとなかなか新鮮です。作者独特の語り口、「どうしょうもねぇ気持ちを押さえかねて、ふらふらと」「少しみっともねぇが斯うする外に法がなかった」「味も素っ気もねえ扱いをする」など全く口語文、それも落語の世界、明治大学時代大学より寄席に足げく通ったせいなのか?勝海舟などを書かせると江戸っ子調で勝海舟が生きて出て来る感じもする。