書名:炎の経営者
著者:高杉 良
発行所:文藝春秋
発行年月日:2009/5/10
ページ:470頁
定価:714円+税
この本を読むのは2回目、日本触媒化学工業(株)という会社を興した八谷泰造の生涯を描いた高杉良の作品。高杉良も化学関連新聞の記者としてこの物語にも登場している。業界紙の記者出身だったようです。そして化学関連の小説はこの本以外には書いていないとか?
戦後から高度成長期にかけて猛烈な社員、経営者達の行動を平成の今からみてみると何故か狂気が感じられる。自分の体が悪くても仕事仕事、家族、自分の体以上に大事なものが仕事。これがこの時代を生きた人々には徹底している。それを少しもおかしいと感じていない。金を儲けてもまだ足りぬ、貪欲にどこまで、儲けても儲けても其処知らず。足りるという事がなかった。そんな人たちが偉い人と言われた。そして尊敬された。
でもそれは金儲けしか残さなかった。過労死なんかも当たり前の時代。昭和は遠くになった感がする。この本に触発される人が当時よりかなり少なくなっているのではないかと思う。時代が人を創る。でもこんな昭和の時代の人、本人はそうありたいと思っていたか?判らない感じもする。時代が違えばもっと違った生き方が出来たのでは?そんな視点から見直すといろいろ教えてくれるところがある。
今は流行らない生き方と斜めから見ていても何も始まらないのだけれど、時代が変わってしまったことを実感させてくれる。良い悪いは別にして秩序だった時代になればなるほど八谷泰造の工夫・知恵と褒められているところの行動も、狂気じみた嫌われる行動に見えてくる。結果的には時代適合が上手に出来た人だったという事かも知れない。
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1986年12月単行本で発売された高杉良の小説です。戦時中の大阪で小さな町工場を起こした八谷泰造。この小説の始まりは大阪駅から下り急行「筑紫」に乗って、列車の中で財界の重鎮永野重雄(富士製鉄社長)を探し、つぶれかかった日本触媒化学工業(株)の増資を口説くところから始まる。最初からスリリングなスタート、奇想天外にみえながらしたたかに計算し尽くされた行動。大手化学会社がどんどん外国からの技術導入で大型プラントを建設するなか、独自技術に走っていく、旧満鉄の技術者をスカウトしたり、京都大学卒の大量採用。有能な人材を集める。大不況で倒産しそうな経験をしながら、次々と石油化学会社を大きく成長させていく、日本ではじめた大型プラントをはじめて外国へ技術輸出したり、世界的な日本触媒化学工業(株)を築き上げた八谷泰造の壮絶な生涯を描いている。伝説の経営者を経済小説家高杉良が語る。