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嵯峨野花譜

書名:嵯峨野花譜
著者:葉室 麟
発行所:文藝春秋
発行年月日:2017/7/15
ページ:324頁
定価:1,700円+税

京都の大覚寺(正式名:旧嵯峨御所大覚寺門跡)が舞台、時は文政13年、生け花未生流の二代目当主不濁斎広甫の元に、年若くして生け花の名手として評判の高い少年僧胤舜が父母と別れて修行に励む。その胤舜に「昔を忘れる花を活けてほしい」「亡くなった弟のような花を」「闇の中で花を活けよ」……次から次へと出される難題に挑んでいく。生け花だけではなく歴史、能、和歌にまつわる様々な花の形・姿を追い求めていく少年僧を描いた作品。

大覚寺に行くと入り口のところにいつも生け花がある。それが未生流の生け花。池坊の生け花などとはちょっと違った感じがする。禅宗のお寺でもないので禅宗の花でもない。でもほっとさせてくれる自然さがある生け方かななんて思って眺めていたりする。

生け花の世界、言葉の選び方は余り旨くない。また良く華道に精通していないところがよくわかる。でも胤舜の出自に関わるサスペンスなどはさすがの展開。

目次
忘れ花
利休の椿
花くらべ
闇の花
花筐(はながたみ)
西行桜
祇王の舞
朝顔草紙
芙蓉の夕
花のいのち

の10章の物語が展開する。そんな中に大田垣蓮月尼が登場する。大田垣蓮月尼は絶世の美人で、男につきまとわれて、困って歯を全て抜いてしまったという逸話もある。丹波亀山藩の京都屋敷の奥女中を務めていた。陶器の連月焼、和歌などに堪能、晩年は引っ越しばかりしていたと言われる。大田垣蓮月尼はなかなか調味或る情勢だと思う。富岡鉄斎の師として有名。

大田垣蓮月尼
鳥羽伏見の戦いの後、東征の為先鋒を承って京都を発する官軍の島津公の行列が三条大橋にさしかかった時、一人の老尼が進み出て一葉の短冊を捧げた。近くにあった西郷隆盛が対応すると、老尼は「蓮月」と名乗り、隆盛に短冊を差し出した。受け取った隆盛がその短冊に目をやると「あだみかた 勝つも負くるも あわれなり 同じ御国の 人と思へば」 という歌が記されていたという。
この歌に心打たれた隆盛は、よくよく熟慮し武力による江戸攻略の考えを改め、すなわち大田垣蓮月が捧げた歌が、後の江戸無血開城の道を開いたという。