書名:完本池波正太郎大成3(蝶の戦記、スパイ武士道、さむらい劇場、西郷隆盛)
著者:池波正太郎
発行所:講談社
発行日:1999/09/20
定価:7,200円+税
今年の夏頃から読み始めた池波正太郎全集も段々残り少なくなってきた。1冊1000ページ位の上下二段組みの大冊。手に持って読むのには少々辛いものがありますが、なかなか面白いのでついつい読んでしまう。全集を読んで見て気がついたこと。池波正太郎の文章は繰り返しが一杯。人物紹介、その土地の紹介、城の紹介など同じ文章を使っている。(タイトルは別ですが、売れっ子になるとやっぱり使える資料を使うということか。)
また文章が短い。20文字位、難しい言葉はあまり使わない。食べ物、食事の話が必ず出て来る。忍びの者が必ず出て来る。この「蝶の戦記」も織田信長、上杉謙信、武田信玄、浅井長政などの戦国時代が舞台。そのなかで活躍する弱小忍者の物語。
何気ない会話の中にあっと気付かされることことばが散りばめられている所などは興味をもって読んだ・
------本文より--------上杉謙信のことを話題にした場面-------
「よし、御屋形が志をとげずに御他界あったとしてもくやむことはない。世は、人は、御屋形のごとき生き様によって支えられているからだ。これは百姓、町人、武士を問わず、正直に、おのれがつとめを果たす者なくては、人びとの暮らしがたたぬ米もとれなくなろうし、布を織ることもならぬ。われらが身にまとい口に入れるものは、正直につとめする者のみが生み出すことを得る。」
・・・・・・・
「世の中は正直の底力のしたに、謀略がうごめき、悪が栄える。しかも悪は善をあざ笑っている。だが、いかにあざ笑おうとも善なくしては悪は成り立たぬのだ。このことは古今を通じて変わること無し!」
「その通りじゃ」
「悪は善に食べさせてもらっているのだ」
------本文より------浅井長政のことを話題にした場面--------
「人の世の行き先のことは、いささかもわからぬ。後世の人びとは去りしむかしを振り返りみて気ままに善し悪しをいいたてるものだが、その、ときどきの世に生きてあった人びとは、みな無我夢中のことよ」
これを古いかたちの戦国大名と見るならば、人間同士の約束を破ることが新しい生き方ということになるのである。いつの世にも、時代の変わり目を切り抜けて利をつかむ者と、人のこころを信ずるがゆえに、立ち後れて"時代”に取り残される者とが出て来る。これをただ単に、古い新しいの二つに切り分けてしまうこともなるまい。
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2024年08月27日(火)07時29分 編集・削除