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生物の無生物のあいだ

書名:生物の無生物のあいだ
著者:福岡伸一
発行所:講談社
発行年月日:2007/5/20
定価:740 円+税

著者は分子生物学者です。分子生物学の視点から見た生物とは何か?を述べています。また科学者のエッセーという感じの本です。生物学、細菌学など先駆者たちの歴史を訪ねながら、現代の分子生物学の世界へ導いてくれます。科学者にしては文章が旨い。野口英世の誇るべき業績は今では殆どないことが定説ですが、なぜ五〇年もの間、他の学者が追試をして事実を確かめなかったのか。それは実は研究所というある閉じられた世界。ボスの力であるとか。オズワルド・エイブリーといった「偉大なる先駆者」DNA、二対構造(これによって傷があっても修復できる構造)4つの符合を使っただけの簡単な情報保存、継続の仕組みなど殆どオズワルド・エイブリーの業績、でもノーベル賞は全く別の人に。ノーベル賞は学者の業績を著すものではないということを科学の物語を読んでいると良く理解出来る気がする。

「生命とは自己複製を行うシステムである」という定義、それだけではないよと「生命とは動的平衡である」物理学を少し勉強した人なら、エントロピーの増大(拡散)ということを知っていると思いますが、実は生物の世界にはエントロピーの減少(秩序)、負のエントロピーが働いている。今、生きている生物を構成してる物質は拡散している。そのままにしておくとくと拡散(死)。一つ一つの細胞、タンパク質を廃棄して、新しい細胞、タンパク質を生成していくダイナミズム。動的に動いている生命維持装置の仕組みを現代分かっている分子生物学の知識で説明してくれる。この本はかなり難しい本です。でも65万部も売れていると帯カバーには書いてある。また「よしもとばなな、茂木健一郎、内田樹、幸田真音、高橋源一郎、武内薫、最相葉月、梅田望夫、森達也、野村進・・・怒濤の大推薦」と推薦文なども入っていますが、果たして何人最後まで読んだか?疑問が残るような気がします。じっくりと読んで、また読み直してようやく分かってくるところが多い本で、興味本位に読む人には3分と読んでいられない本だと思います。

売るための講談社の戦略かもしれませんが、これは邪道ですね。本当に読んで理解出来る人にはみんな逃げられてしまっているのではないかと思います。

この本で生物の動的な活動、負のエントロピーを考えると、環境問題でもエントロピーの拡散ばかり、それも無限大の時間では。でも海、陸地には生物がDNAに書かれたプログラムに沿って複製をしながら、動的平衡していく機能を考えると、フィードバック(負帰還)を考えていかないと、解けない問題だというきもしてきた。コンピュータ程度ではシミュレーション出来ない。人間を超えることはできない。その人間はどう活動しているかも本の少しだけ分かってきただけ。この本が教えてくれる。自然の偉大さを改めて感じさせてくれる。ミクロ世界の一端からマクロの世界が見えてくる。「なぜ、人間に比べて、原子は小さすぎるのか?」これの解はなかなか面白かった。