書名:戊辰物語
著者:東京日日新聞社会部 編
発行所:東京日日新聞社会部
発行年月日:昭和3年(1928年)5月25日
ページ:357頁
定価:二圓
歴史については事件が起こって直ぐという時には結構ピントの外れたが見方をしていることが多い。陰謀説など興るはずのないことを頭だけで考えた輩が論理的に考え、それを流布する。しかし現実はそんなものではない。或る個人、団体の一部が或る企みをもってやっても思い通りいかないもの。明治維新なんかも長州・薩摩が仕掛け、旧幕府が負けて、江戸の人たちは大歓迎をもって、官軍を迎えたかに宣伝されているが、この戊辰物語を読むと江戸の庶民からは随分薩長の官軍は毛嫌いされていたことがわかる。明治維新60年の昭和3年に、明治維新の動乱を経験した古老の回顧談(高村光雲翁、尾佐竹猛翁、山岡松子翁、柳屋小さん翁、金子堅太郎翁など)を集めて、当時の庶民感情、時代の気分など敗者から見た維新の記録として綴られている。明治維新150年の今年、一回読んでおくと良い本です。
坂本龍馬の剣術の指南は千葉周作ということで、広まっているが、実はこの本によると「小千葉」千葉周作の弟定吉その息子の重太郎に剣術を習っていた。幕末の剣術家というと千葉周作、桃井、斎藤の3家が有名ですが、明治維新のころは千葉周作も桃井も、斎藤も高齢か、なくなっている。したがって坂本龍馬が師事したのが、千葉定吉だったのだろう。勿論、北愼一刀流です。これは新聞の読み物だから結構興味本位に書かれている。したがって真面目くさった歴史家の言ではなく。世間の噂や庶民の生の貴重な証言などを引き出している。理屈で押した本ではなく、まず読み物としての面白さ、そして歴史書、歴史家(明治政府の御用学者)が無視してきた事実などが取り上げられている。
目次から「枯れ行く葵にお江戸の不安」「ハイカラ好みの将軍様へ反感」「朱鞘に足駄いきな彰義隊」などタイトルだけでも興味を持ってしまう項目が並んでいる。1985年に岩波文庫からこの本を再編集したものが出ている。国立国会図書館デジタルコレクションで昭和3年の原文を読むことができる。150年前の明治維新ですら知らない事が一杯出てくる。こんな視点からの歴史も面白い。
国立国会図書館デジタルコレクション - 戊辰物語
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1178345/39