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宥座の器(ゆうざのうつわ)

書名:宥座の器(ゆうざのうつわ) 
   グンゼ創業者波多野鶴吉の生涯
著者:四方 洋
発行所:あやべ市民新聞社 白川書院
発行年月日:1997/12/1
ページ:243頁
定価:1200円+税

明治初頭に蚕糸業の最先端にあった前橋や富岡から京都・綾部に技術が伝わり、新しい産業を起こしていった一人の実業家郡是創業者・波多野鶴吉の生涯とグンゼ(郡是)の歴史を紐解く。丹波国何鹿郡(現在の綾部市)で零細な蚕糸業の農家を集めて株主になって貰い、その農家の娘を郡是で働かせるととも学校をつくってしっかりした教育を行った。農家の仕事を作ること。娘達を育てること。丹波の生糸の品質をあげること。

利益優先ではなく、まずは人作りに徹底した実業家波多野鶴吉。妻の先祖に織田信長と戦った波多野秀治がいる。そこへ養子に入った。最先端にあった前橋や富岡へ人をやって技術の習得、そして綾部へ技術を広げる。事業を拡大するばかりではなく、人間を育てるある種宗教家(波多野鶴吉と妻はクリスチャン)的な側面をもっている。現在でも行われていない21世紀の会社経営が垣間見られる。大事にするのは資本家?顧客?いや従業員と蚕糸業の農家を最優先にした。そして品質を上げることで顧客の信用をつかんでいった。会社と言うよりは学校。表は会社で裏は学校。元グンゼで働いていた人たちは誰もグンゼの悪口をいない。

一から教育して貰ったことを感謝している。また株主の95%以上が小口(1株)の株主で大株主はいない。株主であり、原料供給者であり、娘は従業員という形態で、運営していた。よく明治の時代は資本家と労働者との2極に分化して対立軸におき、労働者を搾取している資本家という構図で語られることが多いし、女工哀史、ああ野麦峠などの作品からは女工として虐げられてきた女が描かれそれが当たり前と思っていた。しかしこのグンゼのような全く違う会社、いや共同体があったという事実がとても面白い。現在でも丹波に東証一部上場企業はこのグンゼと日東精工の2社だけが何鹿郡(綾部市)にある。それ以外の郡部には東証一部上場企業はない。

グンゼという会社はそんなに宣伝するわけでもなく、目立たぬ存在ですが、120年も前から継続して活動している会社で、その根本に人間を大事にする。また二宮尊徳の報徳の精神、そしてキリスト教精神があふれている会社経営で続けてきた会社。多分儲け第一主義に傾きかけて事もあろうが、それぞれの時点立場で、それをおもいとどませて原点回帰をしながらすすめてきた会社かなと思う。もう少し詳しく知りたくなった会社であり波多野鶴吉、花夫妻である。「宥座の器」とは一言でいうと「少欲知足」かな。1997年にグンゼ創立100周年を記念して出版された本です。著者も綾部出身で波多野家、大本教の出口家とは縁の或る人です。今でも綾部市は全国的には余り知られていないグンゼと大本教と日東精工位がちょっと知られている程度かな。目立たない存在です。

四字熟語辞典オンラインより
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「宥座の器」とは
自らの戒めとするために身近に置いてある道具のこと。
「宥坐」は身近や身の回りという意味。
桓公の墓にあった器は「水が入っていない空の時は傾き、水を適度に入れるとまっすぐに立ち、水が満ちるとひっくり返り全てこぼれる」という。
これを見た孔子は「知を持つものは愚を自覚し、功績を持つものは謙譲の心をもち、力を持つものは恐れを忘れず、富があるものは謙遜を忘れずに正しい姿勢を保て。」と説いた故事から。
出典 『荀子』「宥坐」

『宥座の器(ゆうざのうつわ) -グンゼ創業者 波多野鶴吉の生涯-』
http://www.gunze.co.jp/corporate/news/2016/09/20160901001.html