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風かおる

書名:風かおる
著者:葉室 麟
発行所:幻冬舎
発行年月日:2015/9/15
ページ:280頁
定価:1600円+税

主人公は筑前国黒田藩郡方五十石、渡辺半兵衛の三女、菜摘(なつみ)幼くして同じ藩の義父竹内佐十郎のもとに養女に出された。あるとき義父竹内佐十郎の妻(義母)が別の男と駆け落ちをして、江戸で所帯を持って暮らしているのを知り、藩内で執拗に「妻敵(めがたき)討ち」を煽る人々がおり、致し方なく藩を致仕し江戸に向かう。そのとき、菜摘(なつみ)は離縁され実家に戻された。16歳のとき、鍼灸医(しんきゅうい)の佐久良亮に嫁した。菜摘は夫の亮から指導を受けて、鍼灸術だけでなくオランダ医学にも通じるようになり、夫が長崎へ勉学に出かけている留守の間、近隣の患者の治療に当たっていた。

「妻敵(めがたき)討ち」に行って無事目的を果たして元義父竹内佐十郎が10年ぶりに故郷に帰ってきた。父竹内佐十郎はかなり大きな病にかかっていた。それの治療に菜摘(なつみ)が待月庵によばれる。というところから物語は始まる。

菜摘(なつみ)の幼いときに起こった事件、竹内佐十郎と妻、そして竹内佐十郎の友人(ライバル達)一連の事件には大きな仕掛けがあり、それを少しずつ、推理の謎解きを行いながら、物語が進んでいく。組織の不条理、人間の業と欲、そして人を信じることの忍耐と苦悩。現代社会にも通じるような物語が展開される。おのれの背負った罪を知らず生きていく人間が描かれている。物語の展開の仕方が旨い。長編時代小説。

本書より
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菜摘の問いに亮はしみじみと言う。
「いや、皆が長崎に来ると聞いて、なんだかよい風が吹くような
 気がしたのだ。 長崎での悲しい出来事をわたしたちが
 吹き飛ばしたほうがいいと思う。」
菜摘は涙が出そうになった。
そうなのだ、どのような悲しい思い出も
乗り越えていかねばならない。
風がかおるように生きなければ。
菜摘はそう思いつつ中庭に目を遣った。
朝方の光があふれる中、風がさわやかに庭木の枝を揺らしている。


【書評】作家、村木嵐が読む『風かおる』葉室麟著 人の脆さ哀歓豊かに描く
https://www.sankei.com/life/news/151115/lif1511150018-n1.html