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江戸っ子侍

書名:江戸っ子侍 上
著者:柴田錬三郎
発行所:講談社
発行年月日:2004/12 /1
定価:819 円+税

幕府の屋台骨が崩壊し始めた天保の世。江戸の街、公儀が天皇の姫君を奸商に売る?その鼻をあかしてやろうと希代の盗っ人吉兵衛は、宵闇に一人の若侍浅形新一郎をひらう。お家を勘当されて、戸板で運ばれて商家の軒に捨てられていた。その新一郎と、伝奏屋敷から姫君を盗み出した。吉兵衛はドジって捕まってしまう。何も知らない新一郎は姫君を連れて居候をしている常磐津の師匠の元へ預けるところから物語が始まる。公儀の悪に挑む江戸っ子の心意気をたっぷり楽しめる時代ロマンです。浅形新一郎という若侍は高貴の生まれ、腕は立つ、二枚目と今まで色々なところでお目に掛かるヒーロー像、眠狂四郎とは全く違ったキャラクター。柴練のまた新たなヒーローが活躍します。

書名:江戸っ子侍 下
著者:柴田錬三郎
発行所:講談社
発行年月日:2006/12 /1
定価:819 円+税

ようやく下の巻を見つけました。抜け荷、買い占めに走る奸商を追って、一路東海道五十三次を西に上がる、宿場宿場で公儀庭番衆、倒幕勤王党との壮絶な戦い。隠れキリスタンの埋蔵金10万両を大塩平八郎に渡す。1日で終わってしまった大塩平八郎の乱の中に浅形新一郎が飛び込む。柴田錬三郎の面目躍如、若侍の青春を縦横に描く。この時代の小説には大抵差別用語などが書かれていることに断りがはいっているが、悪人、善人の区分けをしないと物語として描きにくい、そんなところに現在差別用語とされる言葉をつかって、悪を描き、善を描いている。これを現在流にすると全くつまらないものになってしまう。「平和・平等では文学は死ぬ」とある人が言っていたが、社会、世界に憤るような問題、課題があるから何とかそれに向かって作家のエネルギーが出て来る。そこに文学、芸術がでてくるのではないかと思う。
この作品(下巻)は「眠狂四郎弧剣五十三次」と話のストーリーがよく似ている。途中に挿入される小咄も同じだったり、当時の売れっ子作家にとってはやむ得ないかも。でも沢山の作品を残しているが、一作ごとに新しい工夫を行っている。今そんな作家は少ないのでは。またストーリーだけを追いかけるだけではなく、随所に描写、人となりなど遊びがある。一見無駄と思えるこの詳細描写が実は作家の実力か?漢詩の素養が垣間見られる。また都々逸、和歌、江戸言葉などなど多彩です。