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山本周五郎 作品集一 「あだこ」「晩秋」「おたふく」

山本周五郎 作品集一 「あだこ」「晩秋」「おたふく」
http://princeyokoham.sakura.ne.jp/smf/index.php?topic=36235.0

書名:山本周五郎 作品集一
著者:山本周五郎
発行所:
頁数:116ページ
発売日:
定価:99円 Kindle版

「あだこ」「晩秋」「おたふく」の3編を収録

何故か人情時代小説の名手山本周五郎の人情話が好きでよく読んでいる。今回も短編ですが、どこか引かれる3編です。こんな短い本はじっくりゆっくり読んで見たい本ですね。なかなか後味が良い。どこかほっとする話に酔わせてくれる。

時代小説の名手、山本周五郎が描いた人情話の傑作集。貧しさや虐げられた者たちが愛、悲しみ、怒り、慈しみ、恨み、嫉妬、義理などさまざまな感情を抱え、必死で生きていく姿に思わず胸が熱くなる。人生の喜怒哀楽を知り尽くした作家が描く庶民の生活。

「あだこ」
許嫁のみすずに駆け落ちされて、世を捨てて生きる半三郎のもとに、あだこと名乗る娘が現れた。半三郎は、友人の十兵衛が差し向けた下女と考えて、なすがままに身の回りの世話をさせた。あだこは、掃除から食事のことまで、こまめに働いて半三郎につくした。時は流れたが、あだこの献身ぶりは変わらなかった。半三郎はすべては十兵衛のさしがねだと思い込んでいたがそうではなかった。半三郎の生活は、すべてはあだこの働きによって支えられていた。米屋の店先を掃除し、八百屋、魚屋の手伝いを買って出て、あだこは半三郎の食べ物を用意していたのだった。それを知った半三郎は色黒で純朴な津軽娘あだこに感動して、心を入れかえる。

「晩秋」
藩の財政破綻を回避するために、苛斂誅求とも言うべき施策を打ち出した「進藤主計」とそれを止めさせようとして切腹させられた父を持つ娘「都留」のおはなし。
主君が代替わりし、それまでの秕政を裁かれる主計と無念のままに死んだ父と母の遺志を果たすため、懐剣を胸に主計の身の回りの世話をする都留。そんな中で、世間の怨嗟と誹謗を浴びながら、藩政改革のためにたゆまず屈せず闘ってきた「進藤主計」の覚悟を知る。
「自然の移り変わりの中でも、晩秋という季節のしずかな美しさはかくべつだな」

「おたふく」
貞二郎は腕こそ一流の彫金師だが、ひどく酒好きでついには仕事場でも赤い顔をしている始末だった。師匠の来助もたまらず小言をいうが、貞二郎は「私は酒を飲みだしてから少しましな仕事が出来るようになった」と言い張る始末。確かに腕は上がっているものの、仕上がる数は少なくなる一方で、来助は大いに悩んだ。腕だけでは無くその人の良さを知っていただけにどうにかして身を立ててやりたいと思ったのである。そこで妻のおそのと相談して、嫁を持たせようと決めた。
おしずを嫁に迎えた貞二郎は、世話焼きで素直で、そのうえ女らしい艶っぽさも兼ね備えている彼女のことを愛おしく思うようになる。年は三十六で自分のことをのろまのおたふくだと卑下するおしずだったが、人のことは全く悪く言わないのが、ますます貞二郎の心を動かし、新しい仕事の誘惑にかられ出すのだが……