記事一覧

本に出会う

世界は分けてもわからない

書名:世界は分けてもわからない
著者:福岡伸一
発行所:講談社
発行年月日:2009/7/20
ページ:278 頁
定価:780 円+税

「生物と無生物のあいだ」という本の著者分子生物学者福岡伸一の本です。
顕微鏡をのぞいても生命の本質は見えてこない?科学者たちはなぜ見誤るのか?「私たちは見ようと思うものしか見えない」顔の真ん中について鼻を部分と考えると何処まで鼻。臓器移植で心臓という部品(部分)は何処まで心臓。と考えていくと人間が勝手に境界線を決めているだけで、実は境界は存在しない。
しているように思い込んでいる。人間の歴史は地球のあらゆるものに名前をつけること、分類、分析して、さも分かったような気になっているだけ。でも分けないとまた分からないことも事実。その狭間を分かりやすく説明してくれている。

一つの受精卵が細胞分裂を繰り返しながらそれぞれの部品、あるものは神経細胞、脳、胃、心臓になっていく仕組み、実は全体をコントロールする指揮者はまったくいない。それぞれの細胞がランダムに「周りの空気」を感じて自分は手になったり、足になったりするという。DNAはカタログ、そのカタログを参照しながら、それぞれの部品になっていく。この不思議な仕組み。最新の分子生物学の知識を分かりやすく、名文章で語ってくれる。たった280ページの中に一杯示唆されることが詰まっている名著だと思う。これも判る人には判るという本では。

物事を判断する仕方に、俯瞰的に全体を見るという方法と逆に、周りの空気を感じる、部分部分を見てみる方法の2つがあるが、俯瞰的に全体を見るということはなかなか難しい。出来ないことかもしれない。生物は分かっていたので、周りの空気から自己を創造する仕組みを獲得したのかもしれない。脳が発達したことによって俯瞰的に全体がみられるような気になっているだけではないか?本質的な問題を提起されているように思う。