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昭和史 1926-1945

書名:昭和史 1926-1945
著者:半藤一利
発行所:平凡社
発行年月日:2010/2/13
ページ:545頁
定価:900円+税

たいていの人は時間切れで昭和の歴史などはまともに習ったこともない。司馬史観であったり、落日燃ゆの広田弘毅であったり、阿川弘之の「米内光政」「山本五十六」「井上茂美」による海軍であったり、左翼の戦争に反対したのは我々だけとか、戦後の教育を受けた者には「戦前真っ暗史観」を。新聞、ラジオなどもさも自分たちは全く関係なかったように民主主義、平等平等と。

渡部昇一、谷沢永一などのちょっと右より、また韓国、中国からの歴史観をそのまま信じていたり。とまともに昭和を自分で理解しようとしても適当なテキストは殆どなかった。この昭和史1926-1945は昭和生まれの半藤一利が語り部として昭和史を講義した内容を本にしたものです。いろいろ解釈はあると思いますが、素直な昭和史という気がします。大作ですが一気に読んでしまいました。

 日本の近代は「国家の興亡四十年の歴史」といっています。維新から日露戦争までの40年は「坂の上の雲」のように上がれ上がれ、それから大正-昭和20年までの40年は、明治の人達の折角の財産を食いつぶしてどんどん下り坂。国家を滅亡させてしまった。戦後40年は〇からの出発、奇跡的といわれる高度成長期、その後またまた落ち目。2025年頃にはまたまたどん底か。昭和の恐慌から、朝鮮、中国、満州へ拡大路線をとっていった軍部、最後には米英相手の戦争へとそして敗戦。この教訓は本当はいかさないといけないのだけれど。

昭和史は日露戦争の遺産を受けて、満州を日本の国防の最前線として領土にしようとしたところからスタートしました。最終的には満州にソ連軍が攻め込んできて、明治維新このかた日露戦争まで40年かかって築いてきた大日本帝国を日露戦争後40年で滅ばしてしまう。満州国はあっという間にソ連に侵略され、のちに元の中国の領土となるかたちで戦争が終わる。昭和史とはなんと無残にして徒労の時代であったのか?昭和史とは無になるための過程だったともいえる。こんな歴史を振りかえって著者は

第一に国民的熱狂を作ってはいけない。時の勢いに駆り立てられてはいけない。
第二に最大の危機において日本人は抽象的な概念論を非常に好み、具体的な理性的な方法論を全く検討しようとしない。
第三に日本型のたこつぼ社会における小集団主義の弊害がある。陸軍大学校優等卒の集まった参謀本部等
第四にポツダム宣言の受諾が意志の表明でしかなく、終戦はきちんと降伏文書の調印をしなければならないという国際社会の常識をしらなかった。ソ連は8月15日以降満州で邦人にやりたい放題。抑留されて戻れなかった人が一杯いた。「岸壁の母」ですね。
第五に何かことが起こった時に対症療法的な、すぐに成果を求める短兵急な発想。大局観がまったくない日本人のあり方。
と声を大にして歴史に学べと言っている。

これを今の政府の状況と比べてみても全く同じ、60年経っても変わっていないという気がします。この5つのチェックポイントで現在をチェックすると本当のところが見えてくるような気がします。銃殺になるほどの失敗をした司令官が、また違った方面に配備されてまた同じような失敗をする。部下を殺してしまった。

それでも戦後政府の重職につくという体質はいつまでも変わらないようです。特に「国民的熱狂を作ってはいけない」、昨年政治を変えないといけないと熱狂をもって民主党?
地球温暖化対策で大変だ大変だ。世界に恰好良く見せたいために「CO2 25%削減宣言」自動車業界が大変だ、これからは電気自動車だ。補助金を一杯出して一民間会社を支援する。太陽電池だ、太陽エネルギーだ。例を挙げるときりがない。米英と戦争をはじめたときは熱狂をもってマスコミも国民もみんな歓迎一色だったという事実をじっくり反省しないといけないように思う。民主主義の多数決という仕組みも人気取り、熱狂的なときは気をつけないと禍根を残すことを教えてくれているのではないかと思う。

語り口を本にしてあるので非常に分かりやすい。昭和史を把握するのには良い本だと思う。少なくとも国会議員は一度この本を読んでベーシックな歴史というものを知っておいて欲しいような気がする。