書名:櫻守
著者:水上勉
発行所:新潮社
発行年月日:2007/2/25
ページ:450頁
定価:629円+税
丹波の山奥に大工の倅として生まれた弥吉。若くして京の植木屋に奉公する。神戸市の桜学者、笹部新太郎がモデルの竹部庸太郎との出会いによって、四十八才で生涯を終えるまで、ひたむきに桜を愛し、桜を守育てて行くことに情熱を燃やした庭師弥吉を通じて、滅び行く自然への深い思いやり、見た目だけの、言葉だけの環境保護とは違った深い深い歴史を感じさせてくれる。
水上勉は丹波の言葉、京の言葉、独特の柔らかい言葉をつかって表現する作家。谷崎潤一郎も京言葉を使うが、東京弁の人が使う京言葉でやっぱりいやみなところがある。水上勉は自分の地の言葉として使っているのでいやみがない。笹部新太郎という人は御母衣ダムで水没する樹齢400年の山桜を移設に成功したことで有名。でも笹部新太郎が主人公ではなく、竹部の感化を受けて桜の保護育成に目覚めていく一人の庭師を主人公にしたところが水上勉の特徴がある。200ページ程度の作品ですが、自然保護、人の生き方、死に方、非常に沢山の事を考えさせてくれる。また大きな感動を与えてくれる本です。
またここで桜というと「染井吉野」という風潮もあるが、染井吉野は江戸の産、駒込染井村で江戸時代、江戸彼岸桜、大島桜を交接して作られた品種で、種を植えても育たない。でも害虫などに強い品種だから、全国で植えられるようになった。でも笹部新太郎によると、染井吉野はもっとも堕落した品種、本当の桜は山桜、里桜だという。そういえば京都で桜の名所というと染井吉野は少ないように思う。
「爺イは、毎朝、鉈を研ぎながらわいにいうた。山の自然の美しいのんは、蔓を伐って木挽が木を守ったからや。山は放っておくと、つるがはびこって木は枯れてしまう。」何気ない会話の中に自然、京言葉が入っている。
この本にはもう一つの作品が収められていてもう一つは「凩」(こがらし)という作品。こちらは木造建築の伝統を守って誇り高く生きる老宮大工を主人公に家とは、自然とは、人の生き方、死に方とかを問いかけてくる。