書名:京都冷泉家の八百年
和歌の心を伝える
著者:冷泉為人編
発行所:日本放送協会
発行年月日:2005/7/15
ページ:349頁
定価:2000 円+ 税
冷泉家は鎌倉時代の為相が冷泉家を名乗ったことから始まり、今日まで25代、約720年つづく「和歌の家」です。その前にも藤原道長の11番目の子長家から為相まで280年の長い歴史があります。都合31代、1000年の歴史を持っています。藤原俊成、定家、為家など優れた歌人が続出しています。現25代為人(貴美子の養子)が冷泉家の歴史と位置づけ、現代を語っています。また冷泉家時雨亭文庫に保存されている作品(国宝5点、重文45点、その他多数)を時代と先代の事蹟を加えながら紹介しています。
何故この冷泉家が今まで残ってきたのか?為人は一流の二流でいたこと。明治維新に江戸に天皇について出てこなかった。(冷泉家以外の公家は江戸に出てきて、関東大震災、東京空襲で先祖から宝を無くしてしまったところが多い)源氏物語、伊勢物語、古今和歌集、新古今和歌集、私家集などを何代にもわたって書写を続けてきた。俊成、定家の原本を保存してきた。現在残っている古書というのは大抵江戸時代の写本、古くても鎌倉時代が普通なのに冷泉家文書は本当に奇跡的なこと。最後の章は冷泉貴美子さんが和歌を伝えてきた冷泉家のことを書かれているが、春は梅に鶯、桜と霞、紅葉と鹿、松と白雪、陳腐ですね。単調ですね。これを1000年続けてきたのが冷泉家です。と言っている。
近代短歌は自分の感じたまま、祝いの席でも暗い話題、自分が感じるのだからと自由短歌が流行ってきているが、冷泉家の和歌は違う。自分の感じよりも周りの空気、雅を大切にする。これが伝統であり文化である。とさり気なく言っているか1000年の重みのある金言だと思う。失恋をしてガッカリしていても情熱的な恋の歌を詠む。それも八十才のおばあさんだったりする楽しさ。
京都御所の北、今出川通りに冷泉家はあります。同志社大学の並びに。前は通ったことがありますが、冷泉家のことは先日の冷泉家展をみて藤原定家の自筆の和歌、歴代天皇上皇の和歌、冷泉家の年中行事の紹介などで知り興味を持っていました。冷泉家時雨亭文庫はまだ調査が始まったばかり、これからいろいろと文化資料的な価値のある物が出て来るでしょう。20年50年の仕事になるでしょうが。期待したいと思います。冷泉家の和歌について非常に判りやすい説明がされている。定家風の書、本歌取りの技法などを読んでいると教養が相当深くないと和歌は詠めない。
定家は当時まで評価の低かった源氏物語を絶賛して、和歌をするには源氏物語を読めと門人に奨励していたとか。源氏物語を世に出した人でもあるとか。冷泉貴美子さんが四季を説明されている太陽暦になったのはたった少し前、日本の四季は太陰暦で感じないと判らない。五月雨は梅雨、七夕の月は7日の月の船に乗って彦星が天の川を渡ってくる。桜には霞、春には花がない。花木として梅。春は若葉。当たり前の四季を今は感じられなくなっている。これを伝えていくことが「和歌の家」冷泉家のやってきたこと。
この本の中に紹介されている和歌は説明が良いのか非常に良く分かった。和歌というものが少し判ったような気がする。読んでいて楽しくなる良い本です。歴史の持つ重みが感じられる本です。「本物」の持つ魅力が感じられる本です。