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本に出会う

日本人の忘れ物3

書名:日本人の忘れ物3
著者:中西進
発行所:ウェッジ文庫
発行年月日:2008/6/30
ページ:288頁
定価:667 円+ 税

月刊「WEDGE」に連載された日本人の忘れ物の完結編。ちなみに月刊「WEDGE」は新幹線に乗ると置いてある雑誌です。したがって読んだ人も多いのでは。グローバル化で現代は日本語、日本論の正念場。日本の伝統にどのような意味や価値があるか真剣に向き合わなければならない時代である。

日本人が大切にしてきた「情」の伝統を見直し、正しく位置づける。中西進の傑作。深い教養の持ち主。何気ない普段の生活の中からテーマを見つけて日本人のこころを語っている。例えば恩師の手紙から、昔懐かしい思い出に置きごたつ。独身から結婚して家に帰ると「置きごたつ」が暖かだった。これが非常に印象に残っている。

そのうち家族が出来て「掘りごたつ」家族で暖を取りながらの雑談。そのうち夫婦で半分ずつそれぞれの仕事趣味の場として使う。きっちりと二分されている線が引いてあるわけでもない炬燵の板。その領域を考えながら現在の電車のいすはっきりと区別があるわけではないが7人、8人で分け合う。区別をつけないところに良さがある。しかし西洋思想はそこをはっきりと区別することを求められる。

ぱらぱらと本をめくりながら、好きなところ、興味をひくところから読んでも良いし、最初から読んでも良いし自分の好きな読書スタイルで読めばいい本。中西進は入り口がいくつもあり、出口もいろいろとある奥深い人。という感じがある。今は奈良県万葉文化館長だとか。久々に読み応えのある本に出会った。


本書より
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古池りゃ。蛙飛び込む水の音 松尾芭蕉
柿食えば鐘が鳴るなり。法隆寺 正岡子規

俳句は切断の美の上に成り立つ、森羅万象を切るのである。
最近世界中にハイテクブームが起きているのを私は文明社会の、万事悪しき豊満時代への反抗だと考えている。何でも言える現代は役に立たない言葉の氾濫時代でもある。

その千万言を切って捨てる寸鉄の言語が俳句である。豊満さはコンピュータ氾濫の結果でもある。コンピュータの発達は、おびただしい量の情報を可能にした。ほっておくと、現代人は豊満な情報流に溺れて死んでしまう。

→「選択する能力を養って下さい」それがなければ、どんなに機械を良い技術者を揃えても、意味がない。必要なものを選び取り、不必要なものを切り捨てるという方法は、俳句が現象の中から必要な情景のみを選び取り、他を切断して捨てるのと、何一つ変わらないのである。