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梅原猛の授業 道徳

書名:梅原猛の授業 道徳
著者:梅原猛
発行所:朝日新聞社
発行年月日:2003/1/30
ページ:262頁
定価:1300 円+ 税

哲学者でもあり、「隠された十字架」などの著書もあり幅広く活躍されている梅原猛が京都の洛南高等学校付属中学校の3年生に12回に渡って行った「道徳」についての講座をまとめたものです。団塊の世代より後の世代は道徳というものについて全く教育を受けていない世代。戦前は良い悪いは別として教育勅語があった。洛南高校は仏教系の学校で以前は公立に行けなかった人の行く高校だったのですが、今では有名進学校です。そこの中学生(エリートですね)に向けた講座です。

でも戦後はそれらを全て否定してしまって全く道徳というと拒否し続けてきた。そのツケが、エリートである役人のとんでもない逸脱、大手メーカーの不祥事、親の子殺し、この親殺し、日本の道徳はどうなっているのと、梅原猛が道徳を語る。この本の中で現代に必要な道徳とは、梅原自身試行錯誤(本当はよく考えているが)しながら考えたことを披露してくれている。
 道徳は人間だけのものではない。動物にもある。ジャッカルにしても雄は雌と子の為に狩りをする。獲物は分ける。雄が狩りする間子供は雌がしっかりと見ている。それは無私の愛。人間でも母は子供のために見返りなど考えずに無私を愛を注ぐ。ここに道徳の原点がある。霊長類である猿は同類を殺す。それ以外の動物は同類は殺さない。

霊長類である人間はこのことを肝に銘じておかないといけない。三つの戒律「人を殺してはいけない」「嘘をついてはいけない」「盗みをしてはいけない」と三つの自戒「傲慢になってはいけない」「自棄になってはいけない」「いじめてはいけない」を判りやすく説明している。そしてその根底にあるのは宗教心、自分が今あるのは父母がいて、その父母がいて、その父母がいてと段々46億年の地球の誕生まで続く永遠の時、逆に自分の子供、その子供と永遠に続く子孫へ、子供のない人でも次世代へ伝え繋げていくために自分が存在するということ。その永遠の時間を考えると人の生きる道が見えてくるのではないか?道徳は人間だけのものではない。生きとし生けるものみんなにあるもの。

それぞれの生き物が必至になって生きている姿それぞれ美しい。そんなところから道徳を考えている。中学生向けの講座ですが、大人でも十分判りやすい。是非読んで欲しい本です。今まで「道徳」についてこんなに考えた本は無かったと思う。忠、孝、仁等、儒教の教えが道徳ではない。中国で生まれた儒教は朝鮮でより強固な儒教になって男尊女卑、差別、頑固な原理主義になってしまっている。日本に渡ってきて朱子学は本来祖父母の孝が一番だったのが、忠が一番になって国のため、天皇のため命を捨てても良いとう曲解されてしまった。

では現代は儒教の先祖返りで良いのかというとそうではない。今までの学問の英知を取り入れて道徳を創造していかないといけない。しかし「道徳」ということばに拒絶反応を起こして、まともな道徳論は出てきていない。梅原猛はそれにチャレンジしている。まだまだ若々しい。楽しい、元気の出る本です。