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不機嫌な太陽

書名:不機嫌な太陽
   気候変動のもうひとつのシナリオ
著者:H.スベンスマルク/N.コールダー
発行所:恒星社厚生閣
発行年月日:2010/3/10
ページ:235頁
定価:2800 円+ 税

書名をみるとちょっと何だろうな?って思うかも知れない。地球の気温変動を壮大なスケールで説明している学説です。雲が出来るという当たり前のことを今の科学はどうしてできるかの答えを持たなかった。スベンスマルクは実験によって雲が出来る仕組みを解明した。雲は宇宙線が凝結核を量産するという発見をした。(スベンスマルク効果)地球は太陽系(特に太陽風)によって宇宙線から保護されている。また10km程度の大気が殆どの宇宙線を遮断している。このお陰で生物が危険な宇宙線の害から守られている。でも太陽の活動が弱くなると、大気の低層(3000m以下)に宇宙線が入り込みやすくなり、大気低層で雲が量産される。その雲は太陽光線を反射するため、地球を冷やすこになる。これらは「南極等の氷床コアの分析」「海洋の堆積物の分析」「大規模かつ長時間の霧箱による実証実験」「貝化石などにおける同位体比の分析」「宇宙空間に存在する鉄元素由来のγ線分布から類推される超新星出現の歴史」等によって発見され、理論化されてきている。

宇宙線は超新星爆発が起こったときに多くなる。天の川銀河系(太陽系は銀河系を1400万年周期で右から左へ移動している。それも揺らぎながら)には星の寿命が尽きて超新星爆発が起こる星が一杯ある。それらの影響で宇宙線が地球に降り注いでくる。太陽の活動の活発なときは遮断力が強くて地球は保護される。しかし太陽活動が弱いときは宇宙線が多くなり、雲が多く作られる。これは地球の歴史の中で繰り返されてきたこと。今まで4回の氷河期があったこと。2回の全凍結した地球になったことが判っている。それらの現象をこのスベンスマルク効果は綺麗に説明してくれる。非常に綺麗な理論です。

この本は今騒がれている地球温暖化説懐疑派というような主張は少しもしていません。科学者としての良心、わかった事実をそのまま発言するという謙虚な態度も好意を感じる。素人、専門家の人が素直にこの本を読むとその主観や感情を交えず平易な言葉で語っていることがわかると思う。著者は気候天文学を提唱している。この分野はまだ始まったばかり、分からないことばかりだから100年後の気候、気温などを予測するということは出来ないと断言している。

それだけのデータがないと。またコンピュータシュミレーションにしても変数を変えるだけでどんな結果でも作れる。気象モデルが作れないうちに予測なんかはできないと言っている。久々に良書に出会えた。また天の川銀河から太陽系、地球という天体が相互に絶妙なバランスで成り立っている世界に感動すら覚える。そんな世界に導いてくれる本書はじっくりとみんなに読んで貰いたいと思う。論文ではないのでやさしく書いてあるが、その奥深い考察はひしひしと伝わってくる。また慎重に慎重にと筆を運んでいる息吹を感じる。これとIPCCの報告書(CO2が温暖化の原因)を読み比べると本物かどうかの判断が素人にも出来るのではないかと思う。今後、スベンスマルクらの研究には注目していきたい。知らなかったことを知る知的好奇心をくすぐってくれる本です。

また生物多様性についても大きなヒントを与えてくれる。恐竜が絶滅した氷河期、厳しい環境で鳥類が出てきた。275万年前の氷河期には人に突然変異で知恵をもった。それぞれ氷河期は殆ど種が絶滅に近くなるが、その後の温暖期には驚異的は速さで他種類の生物が出現している事実。地球的規模で考えると生物多様性もまた違った見方が出来るのではないか。ミクロも大事だけどマクロも大事。太陽の大きさを10cmの球とすれば1mmの球が地球。銀河もっともっと大きい。こんな空想もたまには良いのでは。

本書より
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炭酸ガスと気温との関係
もしも,炭酸ガスが自然のものであろうと,人工のものであろうと,気候変動を引き起こす重要な推進力であるなら,炭酸ガス濃度の変動と気候の変動が,あらゆる時間幅において,一致していることを見出せるに違いないと,人は期待するだろう.●過去5億年の間には,気候と炭酸ガス濃度との間に相関関係は存在しない.
●過去100万年の間には,炭酸ガスと温度との間につながりがあった.しかし,そのつながりは,主客転倒であった.なぜなら,炭酸ガスの変化が,温度変化より先行するのではなく,温度変化の後を追っているからである.
●過去1万年の問には,炭酸ガスと温度との間に相関関係は存在しない.
●過去100年の間には,炭酸ガスの増加と温度の上昇との間に,全般的に見れば大まかなつながりがあった.

最後の項目の観測結果のみが,炭酸ガスが気候変動を引き起こす,という証拠とみなしうる.しかし,この100年間のデータを詳細に検討すると,その証拠は,不当に大きな妥協を必要とするものとなる.
●20世紀の温暖化の半分は,1905~1940年の間に起こった.この間の炭酸ガスの濃度は,まだ全く低いものであった.
●しばしの地球寒冷化が,1950年代と1960年代に起こった.この間の炭酸ガス濃度は,上昇中であった.
●21世紀初頭には,炭酸ガス濃度が急激な上昇を続けているにもかかわらず,地球温暖化は,再び中断した.
●もしも,炭酸ガスによる温室作用が,温暖化を起こすなら,上空の空気は表面の空気よりも速く温まらなくてはならない.しかし,観測結果は,その反対であることを示しているのである.

以上の証拠を偏見なしに検討すれば,誰でも,炭酸ガスが,過去と現在の気候変動を引き起こす主要因であるとする見解は,完全に破綻しているのだと考えねばならない.我々2人の立場もそうである.科学的観点から見て,宇宙線理論の方が,ずっと巧くいくのである.

宇宙線と気温との関係
●過去5億年の間の温度変化には,4つの絶頂期と4つの谷底期が存在するが,それらは,鉄隕石中に観察された宇宙線の変動に一致するし,また,太陽系が銀河内を周回中に4本の腕と遭遇したことに一致するのである.
●数千年の間のリズミカルな気候変動は,宇宙線により放射怪炭素や他の放射性核種が生成される量の変動と一致している.●過去100年間の温暖化率の変化も,宇宙線強度の変動と一致している.
●宇宙線が気候に影響を及ぼす作用機構の検証は,低い雲が宇宙線の変動に合わせて変動することを観測することによってなされたし,また,宇宙線が雲の凝縮核の形成を加速する微細な物理機構が存在することを実験で証明することによってなされた.

できれば、政治のことは忘れて下さい。その代わり、次のことは忘れないでいただきたい。発見が行われるような最先端の領域では、そこで実際に起こっていることについては、科学者であっても、世間一般の人びとと同じように、正確には解らないということです。新しい発見が実際に予想外の驚きである時には、その発見は、既存の教育課程の範囲を超えているのです。したがって、教科書でも、また周囲にいる高度に教育を受けた人でも、それらの専門家の専門知識を超越してしまっている知識など、持ち合わせていないのです。

このような場合には往々にして、発見者は、学術上の手続きを省略して、その発見を一般社会に、できるだけ迅速に、しかも、できるだけ直接的に、知らせるのです。ガリレオ、ダーウィン、あるいはアインシュタインは、全てこうしたのです。彼らは、読者の知性に取り入ろうとすると共に、彼らを啓発したのです。この長く続いた伝統に従って、ヘンリク・スベンスマルクと私は、私たちが毎日見ている雲が、太陽と星々から由来する秩序に従っているというヘンリクの驚くべき認識を、平易な言葉で紹介しているだけなのです。読者が、科学者であろうとなかろうと、この議論を比較検討して、我々に賛成でも反対でも、それが自分自身の意見を持ってもらえれば、それで充分満足なのです。

スベンスマルク,ヘンリク (スベンスマルク,ヘンリク)   Svensmark,Henrik    
デンマークの国立宇宙センターにおける太陽・気候研究センターの所長。以前にはカリフォルニア大学バークレー校、ノルディック理論物理研究所、ニールス・ボーア研究所、およびデンマーク気象庁で研究職に就いていた。理論物理学と実験物理学に関する50以上の科学論文を発表。1997年にクヌード・ホフガール記念研究賞を、2001年にはエネルギーE2研究賞を受賞

コールダー,ナイジェル (コールダー,ナイジェル)   Calder,Nigel    
科学の全分野における大発見を選り抜いて解説するという仕事に生涯を費やしている。雑誌“New Scientist”のオリジナル原稿を書くサイエンスライターとして業績を重ね、1962~1966年には同誌の編集長となる。その後、独立して科学分野の執筆者、およびTV脚本家となる。BBCの長寿番組である「サイエンス・スペシャル」の脚本で、ユネスコ科学普及のためのカリンガ賞を受賞

桜井 邦朋 (サクライ クニトモ)       
現在、早稲田大学理工学術院総合研究所客員顧問研究員、横浜市民プラザ副会長、アメリカアラバマ州ハンツビル市名誉市民。1956年京都大学理学部卒、理学博士。京都大学工学部助手、助教授、アメリカNASA上級研究員、メリーランド大学教授を経て、神奈川大学工学部教授、同学部長、同学長を歴任。研究分野は高エネルギー宇宙物理学、太陽物理学
青山 洋 (アオヤマ ヒロシ)       
技術翻訳家。1966年兵庫農科大学(現神戸大学農学部)農芸化学科卒業。塩水港精糖(株)で省エネ等の技術業務に携わる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)