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逆説の日本史 12 近世暁光編 天下太平と家康の謎

書名:逆説の日本史 12 近世暁光編
 天下太平と家康の謎
著者:井沢 元彦
発行所:小学館
発行年月日:2005/5/10
ページ:347頁
定価:1600 円+ 税

織田信長によって兵農分離、専門の軍隊の創設。一向一揆など仏教という宗教の持つ怖さ、当時の宗教はイスラム原理主義とおなじ、信じるか信じないか。信じるとそれ以外を排除するという強固な集団。比叡山の焼き討ち、石山本願寺、一向一揆などを徹底的に排除してきた。その後豊臣秀吉によって一応天下統一がなると、専門化した軍事集団の活用に困ってしまった。そこで「明」を征服するための朝鮮出兵。これは失業対策。当時「明」は北方のヌルムチ勢力におされ気味。その後滅亡する。ここで漢民族の国から満州族の「清」に。それに変わって徳川家康の天下となる。この本は関ヶ原の戦い、大坂冬の陣、その後夏の陣の両軍の動きを分析している。

明智光秀に反逆された織田信長、子供子孫子飼いの家来に恵まれなかった豊臣秀吉。それらの経験を生かして徳川の世を長く続けるための長期計画。将軍家に跡継ぎがなくなった時のために、御三家の創設尾張、紀州は将軍職につくことができる。水戸は将軍家が滅ぶようなことがあったら、天皇家を大事にするという使命を持たされていた。将軍か天皇かといった事態が起こったときは天皇に尽くせと。これは真田家が関ヶ原の時に長男は家康に、次男と父は大阪方に。どちらに転んでも真田家は残るという仕組み。

戦争がなくなって大量に仕事がなくなった武士達を武術ではなく事務方へ、外様は石高を多く、譜代、親藩は石高を少なく、ただし、幕政は譜代以外は出来ないような仕組み。それと江戸、東海道を譜代、親藩で固め、外様は外に。また参勤交代、城普請などの工事を請け負わせる(費用は受け持った大名持ち)。

そのため各藩は江戸屋敷で工事を請け負わないために接待に明け暮れたとか。徳川家が継続するための仕組みをいろいろ仕掛けて家康は亡くなった。その軌跡を分析している。儒教の採用も一つ。260年後幕末になると、この儒教、水戸藩が徳川滅亡の遠因になるところが面白い。また関ヶ原の戦いで東西軍の真ん中を逃げた薩摩藩、西軍の大勝だった毛利家、長曽我部の後、山内一豊が治めた土佐。その時長曽我部の浪人を一人も雇わなかった。郷士として260年の恨みが幕末の土佐の志士たちに。歴史はなかなか面白い。

歴史は部分を見ていては判らない部分が多い。概略でもいいから長いスパンで見る必要があるということを教えてくれる。また歴史には宗教が絡んでいる。しかし歴史学者は宗教はそっちのけにしていると指摘している。信長の比叡山の焼き討ち、一向一揆の徹底。徳川のキリスト教禁止、浄土真宗の西本願寺、東本願寺の分離。お寺の檀家制度の創設。などを行っていたので現代、イスラム原理主義のような極端な宗教観は日本からはなくなっている。逆に仏教の活動も不活発に。お寺は競争のない世界、黙っていても檀家が養ってくれる。逃げることもしない、他のお寺には流れない。戦国時代から徳川の世までの中に明治維新のネタが仕込まれている。歴史の面白さを教えてくれる。