記事一覧

本に出会う

悪魔のサイクル

書名:悪魔のサイクル
  ネオリベラリズム循環
著者:内橋克人
発行所:文藝春秋
発行日:2006/10/16
定価:1.429円+税
--------------本文より------
格差はどこからきたのか?
迫害を逃れて、アメリカに渡ったユダヤ出身の一経済学者の思想は、はじめ「国家からの自由」を求める小さな声に過ぎなかった。七十年代、その声は次第に大きくなり、やがてアメリカの政策中枢部を覆い、南米を皮切りに世界へとあふれ出す。
・・・・市場原理主義(ネオリベラリズム)。
市場が人間を支配する思想へと変質したそれは実体経済を破綻させ、人心を荒廃させる「悪魔のサイクル」を生み出した!
---------------------
八十年代後半から「内需拡大」「内外価格差是正」「規制緩和」「努力が報われる社会」「構造改革」その時々にキャッチフレーズを変えながら、多くの人がその政策変更の本当の意味するところを知らないままに、政策が変更されてきた。また政策変更がしやすいように選挙制度も小選挙区制に変わった。
 そして今年正月から毎日のように報道されている派遣労働者の職探しの話題。このネオリベラリズム循環(新潟大学の佐野誠教授が市場が人間を支配する思想を実践したアルゼンチンの1980年代以降経済研究)を読んでいくと起こるべくして起こっている現象だということが判る。

このネオリベラリズム循環とは
資本自由化政策→外国資本流入によるバブル的好景気→通貨価値の過度の上昇→投機資本の海外逃避による通貨価値の暴落→バブルの崩壊→資本の国外移動の規制ないし凍結、物価統制、景気刺激のための財政出動→通貨供給過剰からくるハイパーインフレ→インフレ沈静化のための財政引き締め→不況→外国資本を呼び込み景気を刺激するための資本自由化政策→バブル的好景気という循環

世界の為替市場で取引される年間300兆ドル、一日あたり1兆ドルにも上る資金移動の実に90パーセント以上が投機を目的とした短期の取引なのです。貿易などの決算に本当に必要なドルは8兆ドルもあれば足りる。

 イスラムの世界では「正当な労働の対価以外は受け取ってはならない」という戒律があります。イスラムは投機しない。イラク攻撃の本当の意味はマネー資本主義をイスラム世界の壁を打ち破って(バリアフリー)浸透させること。だった。

「モモ」「エンデの遺言」ミヒャエル・エンデの中でお金とマネーの違いについて
お金というものはパン屋さんでパンを買うお金
ではマネーとは何かと言えば、それはお金から出てきたものであるけれど元のお金はすっかり姿を変え、投機のために使われているもの。様々な金融商品がそうです。(投資では無く投機)

 そこで問題なのはマネー(虚の経済)がお金(実体経済)に大きく影響を与えていることである。それをあおったのはユダヤ人経済学者のミルトン・フリードマンの市場原理主義。日本では細川内閣、村山内閣、竹中平蔵、小泉純一郎、オリックスの宮内氏等とマスコミなどの規制緩和の大合唱。

結果は現在起こっていることを見てみると分かってくる。正規社員はどんどん減らして派遣社員(非正規社員)を増やして所得格差は増大するばかり、20年ほど前であれば人減らしで解雇されても失業保険でなんとか食いつなげた。解雇されてその日から派遣村へ、生活保護申請とはならなかった。規制緩和すべきものと市場原理にまかせるもの、逆に規制緩和してはいけないもの、市場原理に任せてはいけないもの。投機マネーには規制が必要(短期の資金の移動については高い課税など)とか、自由競争社会で勝てる人(会社)は本の少ししかいない。敗者、弱者保護を考えない社会は正常な神経ではないのでは?
今西錦司の理論に棲み分け理論というのがあるけれど、競争競争はスポーツなど(ゲームだから)では許されるけれどそれぞれに生活がある社会には今のような競争は似合わないと思う。

少し古い本ですが、今の状況を考えるのに適切な本だとおもう。また著者の先見の明に経緯を表したい。