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本に出会う

昭和陸軍の研究

書名:昭和陸軍の研究(上)
著者:保坂 正康
発行所:朝日新聞社
発行年月日:1999/11/05
ページ:432頁
定価:4400 円+ 税

書名:昭和陸軍の研究(下)
著者:保坂 正康
発行所:朝日新聞社
発行年月日:1999/11/05
ページ:422頁
定価:4400 円+ 税

この本を長い時間をかけて読んだ。読んでいて厭になってくるというよりは無性に腹が立ってくる。そんな本。先の戦争を書いた本は一杯あるが、この本はそれらとは違って、戦後生き残った人々を一人一人取材してこまめに事実を集める姿勢、誠実さが感じられる本です。評価はいろいろ出来るだろうけれど力作です。一読の価値有りです。

大正10年前後生まれの世代は生まれた時スペイン風で18%は亡くなった。太平洋戦争に徴収されて40%は亡くなった。非常にアンラッキーな世代。戦後になっても戦争のトラウマから逃れることが出来なかった世代。日本の陸軍の構成として、陸軍大学出身の超エリート、軍刀組が作戦を企画する。机上で戦術を(戦略は全く立てていない)立てる。一般の兵卒は上官の命令は絶対服従。捕虜という言葉は無かった。

日中戦争に至るまでに犯した重大な失敗。「この三つの事件「昭和陸軍の下克上事件―満洲事変(石原莞爾、板垣征四郎)、ノモンハン事件(辻正信、服部卓四郎)北部仏印進駐(富永恭次、佐藤賢了)」の当事者は、陸軍内部でも責任をとらされることなく、むしろ栄達の道を歩んだところに禍根を残した。ここで出て来る高級官僚が終戦ちかいところでも出て来る。失敗した総括が出来ていない仲間内で誤魔化す。

「昭和陸軍のなかには、軍人として、あるいは指導者としてその能力が問われるようなこれらの人物とがいたこと、さしあたりはそのことを次代の者は正確に理解しておくべきである。荒木貞夫、真崎甚三郎、川島義之、山下奉文、福栄真平、富永恭次、寺内寿一、山田乙三、牟田口廉也。」

国民党の蒋介石の腹心の陳立夫は
「1930年代、日本はわれわれの国に侵略してくるのではなく、われわれの国家統一を手助けしてほしかったのです。遠慮なく申し上げますが、日本には大政治家はいません。どのようにしてわれわれと協力した勢力をつくるかという識見を持った政治家はいなかったのです。」と言っている。また反共のために、ドイツ、中国、日本でロシアを包囲するそんな策もあった。日本と敵対して、ロシア、アメリカ、イギリスから武器、弾薬、食料などの援助を受けながら、こんな戦略を考えていた中国人もいた。これが成功していれば中国の共産党化はなかった。また北朝鮮の赤化もなかった。中国の統一が100年遅れたと言っている。

純粋培養の陸軍エリートのどうしょうもない失策、現場、現地を知らずに命令。兵隊を部品の如く、後方支援、食料、輸送、兵站も全く考えていない戦争の仕方。国際法も全く知らなかった。こうあげていくと本当に情けない。あきれ果てる。腹が立つ、こんなどうしょうもない一握りのエリートに多くの人が死んでいった。それと戦後、変わり身はやくエリートだった人たちは次の時代でもエリートの道を歩いた人のなんと多いことか?恥もなにもない。厚顔無恥な厚かましさにびっくりする。

また軍人年金なる年金について調べてみると本当に腹が立つことが判ってくる。平成6年でも約1.7兆円の軍人年金が払われている。それも特攻隊、学徒動員などの人には年金は出ていない。職業軍人にはその時の地位が高いほど高い年金(敗戦の責任はない?)を貰っている。戦後65年たってもまだお金が掛かっている。一般の戦争被害者は自力でなんとか暮らしてきた。この差は何だろう?

また昭和40年代に流行った戦友会(全国で1万以上あったと言われている)でもやっぱり昔の階級が残っていて、戦争当時の真実が言えなくなっていた。年金と戦友会で一兵卒は昔の戦争、上官のやって来たこと、失敗など言えないような環境を作ってきた面もある。また政府が年金を払っているということは階級の上の人たちは戦争に功労があったと認めていることと等価になっているという矛盾、誰にでもわかるように説明して欲しい。

今の政治も段々こんなエリートと呼ばれた机上の空論を振り回す一握りの人々に無茶苦茶にされてしまう。そんなとんでもないことをやっているように感じる。60年70年経っても少しも変わっていない。