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本に出会う

子供より古書が大事と思いたい

書名:子供より古書が大事と思いたい
著者:鹿島 茂
発行所:青土社
発行年月日:2008/4/30
ページ:275頁
定価:2200円+ 税

著者が当時15万円(月給が18万円のころ)の「パリの悪魔」を買えなくて、勤めている大学の図書館に買って貰った体験で「言いようもない悲しみに襲われた」と自分のお金で古書のコレクターを始めた動機を語っている。図書館から借りだした「パリの悪魔」には扉に図書館の公印がべったりと押されたその本は明らかに何かを失っていた。1845年の誕生から130年以上の長い年月を、様々な人の手に渡りながら生き抜いてきた本としての人生に突然終止符が打たれた感じだった。図書館に入れられた本は同じ本でも生きた本ではない。

本は個人に所有されることによってのみ生命を持ち続ける。という信念の持ち主。こんな本に対する思いを持った人も居たのだという新しい発見。電子本なんてトンデモないという感じ。本の収集にまつわるエッセー集、なかなか面白い。著者はアールデコ時代の絵挿入の本のコレクター。ヨーロッパの古書は表紙の装幀は購入した仮綴本(貧相な紙本)を別の職人に注文して革皮を特別にあつらえるのが基本、だから1冊1冊違った本、それも超豪華本が残っているとのこと。この世界にも奥深いものがある。

本書より
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愛書趣味というのは、ことほどさように、だれからも理解されず、健全な世間の常識からは疎まれ蔑まれ、家族からは強い迫害を受ける病なのだが、この病の特徴は病人がいささかも治りたがっていないところに特徴がある。治りたがらない病人ほど始末に悪いものはない。さらにこの病は、財政的に完全にお手上げになって、もうこれ以上は一冊も買えないというところまで行き着かないと、治癒の見通しがつかないという点で、麻薬中毒やアル中などの依存症にも一脈通じるところがある。