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修羅の川

書名:修羅の川
著者:関口 芙沙恵
発行所:光文社
発行年月日:2003/11/25
ページ:428頁
定価:1900円+ 税

養蚕業が日本の重要な輸出産業だったころ、蚕の卵を造る種屋という農家がありました。幕末横浜が開港する頃、一時この種屋が脚光を浴びたことが有ります。ヨーロッパで蚕の病気が大流行して蚕の卵を確保することが出来ませんでした。その時、群馬、長野、山梨などの蚕産地でこの卵の輸出に力を入れた時がありました。この物語はそんな種屋の娘として生きていく瑠璃という女性の半生を描いています。

伊勢崎の養蚕農家から見た、横浜港の開港、絹の輸出、養蚕を通じて幕末から明治の一時期、蚕に群がる欲と欲、日本の夜明け時代の産業振興の一つとして蚕が果たした動きを一人の娘を通じて描いています。群馬から利根川を通って横浜までの船による絹の道、それが明治になって道路が整備されるにつれ鎌倉街道、八王子、横浜の絹の道。横浜の港が少しずつ整備されていく、その初期は中居屋重兵衛((黒岩撰之助こと)野沢屋(のち横浜松坂屋)の祖)が初めて横浜に大きな店を作る。

幕府の方針に逆らって、没落する。そんなドロドロした流れ、原善三郎、小野善三郎、三越得右衛門、茂木惣兵衛、吉田幸兵衛の5家の生糸商の動き、役割。また政府の役人だった渋沢敬一なども登場して、すこし欲張りすぎた脚色。ある程度幕末、維新の歴史を知っていないと人の名前ばかりに圧倒されるところもある。著者の出身地である伊勢崎市が舞台になっていて郷土の歴史を深く掘り下げている。

明治維新の頃の横浜、絹、貿易、商売、などの動きがよく分かる。この中に出て来る横浜の地名なども今でも後を辿ることが出来るところが多くある。蚕の卵のバブル、そして大暴落、そんな荒波の中、養蚕業の安定を目指した人々がいたということを教えてくれる。よく取材、資料もこなせていると思う。