記事一覧

本に出会う

原子炉時限爆弾

書名:原子炉時限爆弾
   大地震におびえる日本列島 
著者:広瀬 隆
発行所:ダイヤモンド社
発行年月日:2010/4/5
ページ:283頁+付録21頁
定価:1500円+税

地震直後から探していた本書、ようやく手に入れることができました。早速読みました。昨年の8月に発売された本で、地震による原子力発電の危険性を声高に叫んでいた本です。当時地球温暖化CO2犯人説が横行していて、原子力発電はクリーンな理想的なエネルギーと賞賛、また景気対策として諸外国に日本の原発を売りつけに政府、財界一丸となって進めていた。こんな時に全く逆に原子力発電ほど危険なものはない。特に2007年7月の新潟県中越沖地震(東京電力柏崎刈羽原発)、2009年8月の駿河湾地震(中部電力浜岡原発)などで震度6程度の地震で原発の耐震性を超えた。それによって今回の福島第一発電所と同じように冷却が出来なくなって非常に危ない状況に陥った。でも政府、マスコミは情報を流していない。幸い大事に至らなかったが、根は深いところにある。

原発の原理(簡単にいうと原子力の核反応の熱で湯を沸かす、湯を沸かしてタービンを回して電気に変えるだけ)を判りやすく説明している。また地震については人類が発生する前からの地球の歴史、大陸が生成された歴史、日本列島の成り立ちなどを説明して、地球は生きている。今の日本列島が出来たのは縄文時代後期、高々4000年も経っていない。地球の歴史からすれば一瞬前のこと。

勿論今の日本列島が完成したわけではなく、生きているからこれからも生成を繰り返す。日本列島のどこをとっても活断層だらけ、まして現在原発のある場所は縄文時代でも海進が起こって貝塚のなどの残る海岸線近くにあった場所。柏崎刈羽原発などは明治時代、日本では数少ない石油の由井のあったところ。こんな場所の地盤は土と岩の間位の軟弱な地盤。54基の原発はいずれも軟弱な地盤の上に乗っている。もっとも日本はどこでも強力な地盤というのはない。大体300万年前位しかたっていない。他の大陸では何億年も前の地面もある。

今まで地震が比較的少なかった時代、でも歴史を見ると記録に残っているだけでも江戸時代の富士山の宝永山が爆発した時期は他の山の爆発、地震が多発している。「地球は生きもの」そんなところに原発をつくることがどんなに危険なことなのかを政府、学会、財界いずれも情報を隠してきている。著者は具体的に個人の名前を挙げているが、それぞれその業界では権威、権力者と呼ばれた人々。大前研一、毛利衛などマスコミに良く登場している人も挙げている。また一時持て囃されていた白州次郎(東北電力会長)も佐藤栄作などとともに原子力を強力に推進していた。と、それに反対していた人は権威をもって押し潰してきた。熊取6人組などを挙げている。

迫害され続けた京都大学の原発研究者(熊取6人組)たち 危険性を訴えたら、監視・尾行された
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2462

地震が起こって、電源系統が切断されて電気が使えなくなるということを予測していたかのように、電気が使えなくなった場合の原発の振る舞い方を懇切丁寧に説明してある。これは今回の東日本大震災で福島第一原発が辿った経緯と少しも変わらない。絶対安全と言われていた原発が簡単に脆くも壊れるということを警告していた。著者はこの本で悪夢であってくれ、夢であればと祈るような気持ちで書いている。東南海地震が駿河に起こると直下型の福島よりはもっと大きな揺れが中部電力浜岡原発を襲う。その時は勿論、東京へも放射能物質も大量に飛散する。また使用済み燃料の危険についてもやっぱり警告していた。保管してある燃料のプールから水が漏れると核分裂によって放射能がでる。今六カ所村に全国の原発の使用済み核燃料が保管されているがその量3000トン、それ以上置くことができない。したがって各原発でプールを作って保管している。この使用済み核燃料の処理の仕方が決まっていない。地下300m~1kmのところに埋めることになっているらしいがまだ処理施設は出来ていない。

この本は中学生程度の理科が判れば判るように書かれているので是非、自分で読んでじっくりと考えて貰いと思う。著者も自分で考えてみて下さいと言っている。本来原子力工学などを学ぶ人はそれなりに理解力、学力も普通の人より優れていると思うのですが、この本を読むと本当にあほうどりばかりという感じがする。少なくとも原子力だけを研究しているのではなく、歴史、地球の歴史、地学、材料工学などを学んで、常識的な判断ができるようになるのが先という気がする。

先日も内閣官房参与に任命された小佐古敏荘・東大教授(放射線安全学)は「政府の対応は法にのっとっておらず、誰が決定したのかも明らかでなく、納得できない」として参与を辞任することを明らかにした。こんな人もいるし、逆に楽観的に言っている人もいる。政府、学会、財界が信頼できない状態ではやっぱり自分で手間を厭わず調べて考える以外なさそうです。