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三陸海岸大津波

書名:三陸海岸大津波
著者:吉村 昭
発行所:文藝春秋
発行年月日:2004/3/10
ページ:191頁
定価:438円+税

 昭和45年に「海の壁--三陸沿岸大津波」と題して発刊された作品。その文庫版です。三陸沿岸は過去380年間に大小合わせて42回の津波の被害に遭っている。特に明治29年、昭和8年、昭和35年。青森、岩手、宮城の三県に渡る三陸沿岸は三度の大津波に襲われた。

 この三度の津波を吉村昭が三陸沿岸を歩きながら、現場の被害状況、体験者などの証言などをインタビューしながら、大津波はどのようにやってきたのか?、生死を分けたのは何だったのか?前兆、被害、救援の様子などを再現した作品です。田老町の要塞のような堤防も出てきます。この時点では十勝沖地震で2mの津波で全く問題なかった。でもここで作者は明治29年の例(ある証言では50m以上だったとも)を出して少し疑問を挟んでいた。

 昭和8年の津波の緊急対策本部の行った迅速な支援体制(警察、教師達、陸海軍を使って)など今回の東日本大震災に比べれば格段の差があるように思う。明治29年の津波の時に、地元の地主が土地を出すから高台に家を建てるように提案しているが、それに応じた人は4軒だけだったとか、その4軒もその後元の海側に移っていったとか。昭和8年の津波でやっぱり被災している。

 理屈で判っていても生活となるとやっぱり便利な処に人は住まう。また4,50年の歳月は世代を変えてしまうので先人の知恵、経験、苦難は引き継がれない。人間の業のようなものを感じてしまう。今回もやっぱり過去の経験は無駄だった。

 歴史に学ぶというのは頭ではなく行動で、動けること。実践の出来ない歴史はやっぱり机上の空論か?吉村昭のこの書は貴重な記録が満載されているのに今回の東日本大震災には役に立たなかったようだ。残念というしかない。
 
 これから20年位は覚えているかも知れないが、「天災は忘れて頃にやってくる」また同じ目に遭ってしまう。これが宿業か?それが人間の本質かもしれない。「地球は生きている」「人間も生きていかないといけない」この狭間でこれからも同じような事が起こってしまう。一世代だけの決意はやっぱり一世代だけで、継続して行けない。ちょっと淋しい気がする。